プレミア最下位の市立船橋が復活! 3年連続のインターハイ出場決定。千葉頂上決戦で絶好調の流経大柏になぜ勝てたのか

試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、選手たちの笑顔が弾けた。誰もが感情を爆発させ、抱き合って喜びを分かち合う。守護神のGKギマラエス・ニコラス(3年)は感極まり、しばらくその場から動けなかった。

6月16日に行なわれたインターハイ千葉県予選決勝。昨年に続いて、2種年代最高峰のプレミアリーグで鎬を削る市立船橋と流経大柏が顔を合わせ、頂上決戦に相応しい白熱したバトルを繰り広げた。

結果は――プレミアEASTでは未勝利で最下位に沈む市立船橋が、同リーグで首位の流経大柏に2-1で勝利し、3年連続31回目の出場権を手に入れた。

「しっかりみんながやり続けてくれた」(中村健太コーチ)

波多秀吾監督に代わり、指揮を執った中村コーチが目を細めたように、この日の市立船橋は今季一番のパフォーマンスだった。ここまでの苦戦を考えれば、想像を上回る出来だった。

序盤から主導権を握られたが、チームは徐々に盛り返していく。ボランチのMF峯野倖(3年)を中心にセカンドボールを拾って素早く攻撃に結びつけ、カウンターを軸に相手ゴールへ迫る。

一進一退の展開が続くなか、0-0で迎えた後半にスコアが動く。53分、GKニコラスがボールをキャッチすると、素早く左サイドに低弾道のフィードを送る。ボールを受けたFW伊丹俊元(3年)は少ないタッチで運んでクロスを入れ、ファーサイドに走り込んだFW久保原心優(3年)がダイビングヘッドでネットを揺らした。

70分にCKから同点ゴールを与えたものの、集中力を切らさずに戦い続けた市立船橋は、73分に勝ち越す。セットプレーの崩れからセカンドボールを拾った左SB渡部翔太(3年)がクロスを供給。ゴール前でCB岡部タリクカナイ颯斗(3年)が頭で合わせ、CBギマラエス・カブリエルを経由したボールを、最後は伊丹が押し込んだ。

このままリードを守り切り、インターハイ出場を決めた市立船橋。振り返れば、今季は春先から苦戦が続いた。昨年度の選手権でベスト4を経験したエースストライカーの久保原、主将を務める岡部、フィリピンの世代別代表歴を持つ守護神のニコラスが中心となる今年のチームは、期待が高かったものの、怪我人が続出した影響もあり、プレミアEASTでは開幕から8試合を戦って、いまだ白星はなし。インターハイ予選前の時点で2分6敗に留まり、1得点・17失点はいずれもリーグワーストとなっている。

決して内容は悪くないが、一つのミスや失点をきっかけに崩れる悪癖が改善できない。さらに、第6節からGKニコラスと世代別代表歴を持つ中盤のキーマン峯野が負傷離脱し、チーム状況はより悪化した。攻撃陣も不振が続き、チャンスを作ってもゴールを奪えない。エースの久保原は大スランプでリーグ戦無得点と、気負い過ぎたゆえに決定機を決め切れていなかった。

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問題点が顕著に表われたのが、インターハイ予選前最後の一戦となった第8節の昌平戦だ。前半は互角以上の戦いを見せたが、後半早々に失点すると、一気に崩れて0-6の大敗を喫した。

「1失点してから一気にいかれてしまう。そこはメンタル的なところだと思う。それでもやらないといけないので、そこは課題だと思うけど...」(波多監督)

しかし、この敗戦がチームをひとつにする。当時の状況を振り返り、岡部は言う。

「僕たちの代は良くない状況になると、文句を言い合うとかではなく、静かになってしまう。そのなかで本当に苦しかったし、市立船橋として情けないとみんな思っていた。でも、現実は甘くないし、同情してくれる人もいない。練習からしっかりやっていく以外に結果を変える方法はないし、スタッフも時間をかけて、いろいろ考えてくれた。

そうした状況下で一番大きかったのが、昌平戦でした。プレミアリーグは決定力不足で負ける試合が多かったけど、昌平戦は完全に後ろの選手の責任。僕を中心に話し合うなかで、前の選手は後ろの選手にどうしてほしいのか、後ろは前にどうしてほしいのか。選手ミーティングでぶつかり合って、インターハイに向けて、昨年のキャプテンである(太田)隼剛さんからもアドバイスをもらいながら、少しずつ変わっていくことができました」

簡単に変われるわけではない。だが、インターハイ予選を通じて、一回りも二回りも逞しくなった。準々決勝では中央学院に0-1とリードを許し、残り時間は3分。動じずに戦い続けたチームはそこから2点を奪って逆転勝利を収めた。続く東京学館との準決勝では、先制しながらも追いつかれて延長戦に突入も、2-1で突き放した。

こうした接戦を制していくなかで、チームは確かな手応えを得ていく。

「中央学院戦の勝利は大きかった。前半は相手のゲームで後半に反撃に出たけど、見ている方も含めて完全に中央学院のゲーム。でも、チームは前を向いていた。キャプテンの岡部は下を向いていなかったし、気持ちが全然ぶれていなかった。苦しい状況でもピッチの中で岡部がどうにかしてくれる。そういう信頼が生まれるほどだったので」(中村コーチ)

以前であれば、リードを許したり、同点に追いつかれると、バタバタと崩れていただろう。だが、どんな状況でも動じず、自分たちを信じて戦って勝利を引き寄せた。最後は最大のライバルである流経大柏を撃破。絶好調の相手を自分たちのペースに引き込み、追いつかれてもタフに戦って勝利をもぎ取った。

本来の姿を取り戻したものの、これで終わりではない。6月23日にはプレミアの舞台で流経大柏とのリターンマッチが控えている。インターハイで飛躍を遂げるためにも、是が非でも勝ちたい一戦だ。今日だけは優勝の余韻に浸るが、翌日からは次なる戦いに向けて新たなスタートを切る。

取材・文●松尾祐希(サッカーライター)

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