<10>政策反映へ経験伝える 声を上げる若者・英国編 希望って何ですか

ケンドール議員(中央)に自身の経験を伝えたヘファナンさん(左)=2月、ロンドン・英国議会

 2月下旬。ロンドン中心部を流れるテムズ川に面した英国国会議員会館の一室で、一人の青年が自身の経験を語り始めた。幼い頃、貧困家庭で育った記憶だ。

 視線の先には、労働党のリズ・ケンドール「影の労働・年金担当大臣」の姿。野党が将来の政権担当に備えて組織した政策立案機関「影の内閣」の一員だ。労働・年金省は子どもの貧困に関する統計など福祉や年金を担当している。

 重要ポストを担う議員を前にスピーチしたのは、スコットランドに住む大学生マイケル・ヘファナンさん(18)。2023年5月から、子どもの貧困撲滅活動をする連合団体「エンド・チャイルド・ポバティ」によるユースアンバサダーとして活動している。

 ユースアンバサダー制度は、低所得世帯で暮らした経験を持つ若者の声を国会議員などの意思決定者に届け、政策に反映させることを目指す。現在、16~25歳の17人が任命されている。

    ◇  ◇

 グラスゴーで生まれたヘファナンさんは母子家庭で育った。母親は優しかったが、精神的な障害があり家計を管理することが苦手。働くことも難しく、一家に金銭的な余裕はなかった。

 小学生の頃。クラスメートは下校時にファストフード店に立ち寄って小腹を満たしていたが、「そんな機会は自分にはなかった」。14歳の時。お金がないためにフランスへの修学旅行に行くことができなかった。給付金の申請方法が分からない母親に代わり、自ら手続きしたこともある。

 「年齢にしてはしっかりしているね」と周囲の人たちからよく言われたというヘファナンさん。「早く大人にならなくちゃいけないというプレッシャーがあった」と振り返る。

 給食無償化や給付金など社会の支えもあり、「非常に困難な生活とまではいかなかった」と振り返るが、同世代の子どもと同じような教育が受けられなかったり、遊べなかったりしたことへの不公平感は拭えずにいる。

    ◇  ◇

 ヘファナンさんは現在、名門として知られるエディンバラ大に通いフランス語と政治学を学んでいる。「子ども時代に多くの障壁に直面したが、この大学へたどり着いたことは誇りに思っている」と胸を張る。

 スコットランドでは大学の授業料はかからない。生活費をまかなう奨学金を受けており、アルバイトをしなくても勉強やアンバサダーの活動に集中できる環境が整っているという。

 「政治家は全ての人たちの声を聞いているわけではない」。活動を続ける中でそう実感してきたからこそ、ヘファナンさんは使命感に駆られている。

 「貧困に置かれた子どもの境遇をきちんと理解してもらうために、経験した人間が伝えていくことはとても重要だ」

 誰もが今後、自分のように不公平を感じながら子ども時代を過ごさずに済むように。

© 株式会社下野新聞社