「被災した人々に生演奏を」 クラシック、ジャズ・・・異色の女性3人組ユニット 東日本大震災発生後70回の演奏会 こだわりのスタイルで音楽と元気を届け続ける 岩手・宮古市【復興への羅針盤】

東日本大震災で被災した地域を回り、ボランティアで音楽を届け続ける岩手県宮古市の女性3人グループがいます。フルートとバイオリン、キーボードが織り成す美しいメロディーを通して3人が伝えたい思いとは。

東日本大震災の発生から13年3か月となった6月11日。
宮古市の高浜地区で演奏会を開いたのは、市内を拠点に活動する音楽グループの「Grazia(グラツィア)」です。

メンバーはフルートの野崎千賀子さん、バイオリンの小松智佳子さん、そしてキーボードとボーカルの小野寺智子さんの3人。
宮古市内の小学校の音楽の特別授業にそれぞれ講師として招かれたことがきっかけで2005年にグループを結成し、震災直後からは岩手県内の被災地を回って音楽を届けています。

この日、演奏会が行われた高浜地区も2011年3月11日、津波で地区のほとんどが浸水し、6人が犠牲になりました。フルートの野崎さんもあの日、音楽教室を兼ねていた宮古市内の自宅が津波で全壊しました。

震災から13年以上経った今も、泥だらけになったピアノを見たときのことを鮮明に覚えているといいます。

(野崎千賀子さん)
「ぼたっぼたっと涙が流れて、演奏に行くとかいうのはしばらく考えられずに、それで毎日泥と格闘していた」

それでも3人は前を向き、震災発生からわずか3か月後には被災した地域や人たちに音楽で元気を届けようと、ボランティアでの演奏会を始めました。

避難所や仮設住宅を会場に行われる演奏会で3人がこだわったのは、必ずドレス姿で演奏すること。

ドレスに込めた思いとはー。

(野崎千賀子さん)
「化粧をしてキレイなものを着てとかは考えられない状態にあった中で、着替える場所がなかったら目の前で着替えさせていただいたこともありましたし。でもそうでもしてもやっぱり非日常っていうことをその時間を味わってほしい」

「Grazia」とはイタリア語で「優美」を意味する言葉です。
フルートの野崎さんとバイオリンの小松さんはクラシックの演奏者。

キーボードとボーカルの小野寺さんの専門はジャズという異色の音楽ユニットです。

(小松智佳子さん)
「クラシックのみとはまた違う色というか味を出せるのはすごく強いかなと思います。歌も歌いますし」

北は田野畑村から南は大槌町まで、これまで開いた演奏会の回数は13年間で70回に上ります。

松の木に火をともして先祖を迎える、宮古市のお盆の風習「松明かし」。

演奏会に足を運んだ人から「災害公営住宅に入ったら松明しができなくなった」と聞いた小野寺さんは、この地域のお盆の風習を歌にしました。

(小野寺智子さん)
「この活動は私のライフワークで、震災という大きい出来事があった後に、これは生きてる間に自分の仕事、自分の音楽性で何が伝えられるかなっていうライフワークです」

被災した地域に寄り添うGraziaの演奏会は、避難生活で離れ離れになった人たちがつながりを取り戻すきっかけにもなりました。

(野崎千賀子さん)
「私たちが行く。そうするとそこの集会所に皆さんが来れる方だけでも集まっていらして、それでちょっとでもそこでお話をして繋げていく」

震災の発生から時が流れても、3人の音楽が持つ役割は今も変わりません。

(訪れた人は)
「畑にいだったけどね。思い出して急遽遅くなったけどね。来てよかったです」
「いいですね、いっつも家に一人いるから」

グループは今後、活動の幅を広げていくことを考えています。

(小野寺智子さん)
「被災地というものが、今年は石川の地震がありましたが、被災地というところが出たならば、そこに行って、もし可能ならば生演奏をお届けしたい」

(小松智佳子さん)
「病院ですとか、外に出られない、演奏会もなかなか聞きに行けない、というところに私たちが足を運んで、演奏を届けることができたらいいなっていうのはあります」

地域の復興の日々と共に歩んできたGraziaの3人。3人が奏でる美しいメロディは、これからも多くの人の心に元気と癒しを届け続けます。

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