60歳からの仕事はどう探す? 準備したいこととは? 井戸美枝先生がアドバイス

とくに50代の方は、この先の働き方をどうするか、考える機会が多くなったのではないでしょうか。60代も働きたいと思っているけど、仕事があるのか心配……。今からできる準備や仕事探しについて、ファイナンシャルプランナーの井戸美枝さんに教えていただきましょう。

★50代後半からのNISAは遅い?★

【57歳 Mさんからの質問】
60歳以降も、できれば70歳ぐらいまで働きたいと思っています。でも、仕事があるか心配……。仕事探しのために、今からできる準備や探し方のコツはありますか。

【井戸さんのアドバイス】
・定年後もバリバリ働くなら、早くから準備を。
・公共の職業訓練制度などを利用して、セカンドキャリアを見つけるのも手。
・さまざまな職種や働き方から選びたいなら、シニア向け求人サイトが便利です。
・地域密着の仕事なら、シルバー人材センターやファミリーサポートセンターをチェック!

定年後もバリバリ働きたいなら、早くからの準備が必須!

まず、なんのために働きたいのかを考えてみましょう。

働く理由が「まだまだフルに働きたい」「キャリアップしたい」ということなら、早くから戦略的に準備する必要があります。

働き方としては、雇用継続で会社に残る、転職してあらたな仕事に就く、フリーランスとして働くなどの選択肢がありますが、正規雇用で働く人の割合は年齢とともに減少し、60代前半では34.6%、60歳代後半には13%までダウン(※1)。正規雇用の門は、どんどん狭くなると考えておいたほうがいいでしょう。

一方で、パートとやアルバイト、契約社員、嘱託などの非正規雇用やフリーランスで働く選択肢もあり、65歳を超えると、非正規雇用やフリーランスが多数派の働き方に。

今の仕事を生かしてフリーランスとして働くなら、たとえば、会社員時代に営業職だった人が定年後に備えて専門知識を学び、不動産や保険などの営業代行を請け負うといったやり方も考えられます。

どちらを選ぶにしても、自分のこれまでのキャリアや興味のある分野などを考慮して、どんな働き方をしたいのか、よく考えてみてください。

求人サイトで情報を集めたり、セカンドキャリアのための学び直しも有効

キャリアを生かせる仕事を探すなら、求人サイトで情報を集めましょう。また、知り合いや仕事関係の人などに自分の希望を話しておくと、声がかかることもあります。

セカンドキャリアやキャリアアップを考えるなら、学び直しも有効です。大学や大学院、専門学校などに行って学ぶなら、なるべく早いうちに始めたいもの。

現在、雇用保険に入って働いていたり、最近まで働いていた人は、ハローワークの「教育訓練給付制度」や「公共職業訓練」を利用して、あらたなスキルを身につけるのも手です。雇用保険に入っていない人、フリーランスで働いている人などは、ハローワークの「求職者支援制度」を利用するといいでしょう。

教育訓練給付制度

厚生労働大臣の指定を受けた教育訓練を受講・修了すると、かかった費用の一部が支給される制度。対象の教育訓練は約1万6000講座あり、オンラインや夜間・休日に受講できる講座もあるので、今の仕事を続けながら再就職に備えられます。

支給される額は、受講費用の20~70%(専門性が高いほど、支給額が大)。「専門実践教育訓練給付金」は10月から助成率を70%から80%に引き上げます。期間は最大3年間で、補助上限額は192万円になる見込みです。実践的な資格が多いので、しっかり学び働きたい人向けです。

対象は、1年以上雇用保険に加入して働いている人、離職から1年以内の人など。

問い合せは、ハローワークへ。

公共職業訓練

国・都道府県が実施する公的職業訓練。3カ月~2年で、就職に役立つ技能や知識を習得することができます。訓練コースは、介護サービス、OA事務、医療事務、スマート情報システムなど多岐に渡ります。

受講料は無料(テキスト代などの実費1、2万円程度を除く)。

対象は、雇用保険の失業給付を受給している人。定年退職して、失業手当を受け取っている期間に受講することができます。

問い合せは、ハローワークまたは訓練実施機関へ。

求職者支援制度

再就職や転職、スキルアップを目指す人が、無料で受けられる職業訓練。雇用保険に加入していない自営業やフリーランスの人(廃業者も含む)でも受けられ、条件があえば、月10万円の給付金も受けられます。
期間は、2~6カ月。訓練コースは、ビジネスパソコン、医療・介護事務、WEBデザイナー、ネイリストなど多岐に渡ります。

受講料は無料。本人の収入が8万円以下、世帯全体で30万円以下、金融資産が300万円以下などの条件にあえば、受講中、毎月10万円の給付金がでます。

対象は、雇用保険の適用がなかった離職者、フリーランスや自営業を廃業した人などで、ハローワークに求職の申し込みをしている人。また、パートやフリーランスで働きながら、正社員への転職を目指す人も利用できます。

問い合わせは、ハローワークへ。

シニアの就業を応援する自治体も

ほかにも、国や自治体の就労支援もあり、たとえば、東京都では、シニア就業応援プロジェクトとして、シニアやシニア予備群を対象とした東京セカンドキャリア塾、65歳以上の人を都内の企業に派遣するトライアル短期間のトライアル65事業などを行っています。興味がある人は、問い合わせてみるといいでしょう。

無理なく、自分のペースで働きたいなら、選択肢はいろいろ!

「年金だけでは不安だから」「社会とのつながりがほしい」「人に喜ばれる仕事がしたい」といった理由で、短時間でいいので働きたい人も多いでしょう。

実際、60歳以降の働き方では、これまでの人生経験を生かしつつ、無理なく自分のペースで働く人が増加。週1~19時間の短時間労働の割合が、60歳代前半で15.4%、後半で26%、70歳代前半では32.9%と、年齢とともに増えています。

しかも、労働時間が減って働くストレスが減る一方で、定年後は圧倒的に仕事に満足している人が増えています。実際、60歳では40.3%、70歳では59.6%の人が仕事に満足していると回答しています。(※2)

以下のような方法で、自分にあった仕事を探しましょう。

求人サイト

さまざまな職種から幅広く探すなら、求人サイトをチェックしてみましょう。
ミドルシニアを対象にした「マイナビミドルシニア」のほか、「しゅふJOBパート」「はた楽求人ナビ」「グラン・ジョブ」などでも、60代以上の求人が豊富です。

自分が働きたい時間帯、働き方(座ってできる仕事、接客、在宅など)の希望、持っている資格やスキルなどを整理しておくと、条件から絞り込みやすくなります。

「専業主婦で特別なスキルがない」と心配する人もいますが、調理や清掃など主婦ならではの得意な分野を生かす仕事は実はたくさん! また、ボランティアやPTA活動などの経験、子どもを育ててきた実績なども自己PRで生きることもあります。キャリアに自信がない人は、「未経験者歓迎」で探すといいでしょう。

シルバー人材センター

シルバ-人材センターは、高齢者が働くことを通じて生きがいを得るとともに、地域社会に貢献するための組織。原則として、市区町村単位に設置されています。

60歳以上なら誰でも会員登録でき、センターが地域の家庭や企業、公共団体などから受けた仕事の適任者を会員から選んで業務を依頼。会員は業務をこなしたあとに、センターから報酬を受けとれます。

仕事内容は、家庭教師や翻訳、大工仕事、衣類のリフォームなど特定の技術が必要なものから、一般事務、パソコン事務などの事務分野、スポーツ施設やマンションなどの管理分野、集金や電気・ガスの検針などの折衝外交分野、清掃や草取り、梱包などの作業分野、掃除や洗濯などの家事サービス、話し相手や介助などの福祉サービス、子守りなどの育児サービスまで、幅広い分野に渡ります。

各センターで募集内容が異なるので、住んでいる地域のセンターに問い合せてみましょう。ボランティアやサークル活動もあり、宿泊施設の割引などの特典も。技能取得のための講習を行っているセンターもあります。

ファミリーサポートセンター

子どもが好きで、育児をお手伝いしたいという人にぴったりなのが、ファミリーサポートセンターです。

子育てを助けてほしい人(依頼会員)と助けたい人(提供会員)を地域でマッチングして、相互援助するもので、市区町村、または市区町村から委託を受けた団体や法人が運営しています。

仕事の内容は、子どもの保育施設などへの送迎、冠婚葬祭時や短時間就労時などの一時預かりなど。報酬は、1時間800円~など。仕事内容も報酬も自治体で異なるので、詳細は役所に問い合せを。

町内会の掲示板や折込チラシにもチャンスが!

ほかにも、自宅近くで仕事を見つけたいなら、町内会の掲示板や新聞の折り込みチラシの求人情報をチェック。シニアの就労支援をしつつ、働く場所を提供している団体もあります。

修行中のケガを保障する保険の有無を必ずチェック

短時間の仕事を請け負う場合、注意したいのは保険加入の有無。

最近はスマホで当日のみのバイトが申し込めるアプリもありますが、就業中のケガを保障してくれる保険に加入していない場合は注意が必要。少額を稼ぐために働いて、ケガで多額の医療費がかかっては元も子もありません。
保険加入について、必ず確認しておきましょう。

60~70代の仕事探しの強みは、年金を受けとりながら探せること。時間がかかっても、自分が楽しめて生きがいにもなるような仕事をぜひ見つけてほしいと思います。

※1、※2 参考資料
『最新データと図解でみる 定年後のお金と暮らし』坂本貴志、井戸美枝共著(宝島社)より

井戸美枝さんプロフィール
いど・みえ●ファイナンシャルプランナー(CFP認定者)、社会保険労務士、国民年金基金連合会理事。生活に身近な経済問題、年金・社会保障問題が専門。「難しいことでもわかりやすく」をモットーに、雑誌や新聞に連載を持つ。近著に『フリーランス大全』(エクスナレッジ)。『親の終活 夫婦の老活 インフレに負けない「安心家計術」』(朝日新書)、『一般論はもういいので、私の老後のお金「答え」をください!増補改訂版』(日経BP)など著書多数。
ホームページ:http://mie-ido.com
X(旧Twitter):@mieido


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