駆り出された2千人の半数が犠牲になった沖縄の学徒 「いつまでも伝えてよ」元学徒作詞の歌 不戦の誓いは次世代に【慰霊の日企画 #あなたの623】

10代で沖縄戦に動員された元学徒の男性が作詞した歌がある。歌うのはこの男性の母校、県立首里高校(旧県立第一中学校)合唱部の生徒たちだ。歌に込められた思いを託された生徒たちの姿を取材した。
(RBC NEWS Link 沖縄戦について考えるシリーズ「#あなたの623」6月20日放送回)

「学徒」として沖縄戦に関わった人たちはもう少ない

沖縄戦に動員された県内21の旧制師範学校・中等学校の元学徒らでつくる「元全学徒の会」。79年前、凄惨な戦場を生きた当時10代の少年・少女たちはみな90歳をゆうに超えている。沖縄戦が凄惨を極めた6月は、元学徒らにとって戦場で命を落とした学友を思い、後世を憂う季節だ。

19日、彼らは多くの学徒の犠牲を出した首里高校の「養秀会館」で開かれた平和祈念祭に集まった。

▽18歳で戦場へ 渡口彦信さん(97)
「79年前ですか、地獄みたいな戦争を思い出して胸が詰まるような思いです」「戦争は、やっていけないと。この経験を後輩に伝えるのは、我々の義務。将来、戦争経験者がいなくなると、どうなるか。ちょっと寂しいですね、正しく伝わるか…」

▽16歳で戦場へ 瀬名波榮喜さん(95)
「この日が来たら、戦時中の学生生活を思い起こして、亡くなった旧友達の顔が眼前に浮かぶ」

▽15歳で戦場へ 翁長安子さん(94)
「命(ぬち)どぅ宝、一度しかこの世に生を受けることはありませんので、2度とお国のために命を捧げるような世の中になっては欲しくないと思います」

会場には特別に病院から許可をもらって参加した、闘病中の95歳の姿もあった。

宮城政三郎さんは、与那国島から県立第一中学校(現首里高校)に入学した。1944年、両親のいた台湾に疎開したが、翌年には日本軍に動員され16歳で戦場に駆り出された。

▽16歳で戦場へ 宮城政三郎さん(2018年・89歳当時のインタビュー)
「こんな子どもみたいな生徒をね、戦争に駆り出して戦没させるっていうのは、これは絶対にやってはいけないですよ」

会場にはそんな宮城さんに会うのを楽しみにしていた高校生たちがいた。首里高校の合唱部の生徒たちだ。

歌を通して「戦争を知らない」ことに気づいた生徒たち

平和祈念祭の前日、テスト期間中の生徒たちは勉強の合間をぬって練習に励んでいた。

♪「10代の学徒らの沖縄戦~」「伝えてよ~」

歌うのは宮城さんが2年前に作詞・作曲した「ああ、いつまでも伝えてよ」。

3番まである歌詞には、自らの記憶を語り継ぐ覚悟と、平和を望んだ学友の無念を伝え続けてほしいとの思いが込められている。生徒たちはこの日まで何度もディスカッションを重ねてきた。

▽ディスカッションの様子
「10代の沖縄戦~という所、どう歌いたい?」
「これからどう生かすかとか、未来に向けての曲だと思うから全体的に明るくではないけど訴える感じで…」

▽首里高校合唱部部長 仲里伊織さん(2年)
「戦争の事だから自分たちは経験はしていないけど、宮城政三郎さんのこの歌を通して、この歌詞の1つひとつの意味を考えて話し合ったと思うから、明日は歌を通して来てくれる人に思いが伝わるように、歌詞をかみしめて響きも意識して、どう歌いたいか、1人ひとりしっかり自分の考えを持って、歌えるようにしましょう」

▽首里高校合唱部 大城英里名さん(1年)
「学徒の21校の学校の方々が、学徒隊として戦ったことを深く知らなくて、この曲を通して初めて知ったので、本当に私もこの戦争について知識のない若者の1人なんだって気づいたし、それを私たちが歌うことで広めていきたい」

ー平和念祭当日ー

この日、はじめて生徒たちと対面した宮城さん。戦争に青春を奪われた学友に近い生徒の姿を目を細めながら見守った。

「ああ、いつまでも伝えてよ」作詞・作曲/宮城政三郎 きょうも吹き渡る摩文仁の丘に 建てる「学徒の碑」亡き数記す 「刻銘版」を君知るや 十代の学徒らの沖縄戦 伝えてよ ああいつまでも 伝えてよ 伝えてよ あの日の面影よ摩文仁の風よ ここに我立てば戦の悲劇が甦り 心いたむ 語れども語れども語り継がん 伝えてよ ああいつまでも 伝えてよ 伝えてよ きょうも吹き渡る摩文仁の丘に 不戦の誓い津々浦々に 響き渡れ我ら立つ 平和世に生きたいと 友の無念を 伝えてよ ああいつまでも 伝えてよ 伝えてよ

自身の歌を歌う生徒の姿に宮城さんも全身で応えた。

過去の悲劇を伝え続ける。託された思いを精一杯歌にのせた合唱部の姿は多くの参加者の心に届いた。

▽参加者「頑張ってくださいね。ありがとうございます」
▽生徒「大切に歌わせていただきます」

▽15歳で戦場へ 翁長安子さん(94)
「安心しました、いつまでも伝えてよとこの歌の通り、みんなが歌ってくれると思います」

▽18歳で戦場へ 渡口彦信さん(97)
「宮城さんの作詞作曲、胸にじんときました。いついつまでも、この戦争の苦しみ伝えて、またと戦争がこないようにその思いをずっと伝えてほしい」

▽16歳で戦場へ 瀬名波榮喜さん(95)
「心に迫ってきますね、本当に、涙が出てきますよ。是非ああいう風にいつまでも語り継いでくださいと、同じ思いだと思いますよ」

▽生徒ら
「宮城さんの書いた歌を歌わせてもらって本当に光栄に思います。ありがとうございます」「語り継いでいきます」

病気の後遺症でここ数週間、言葉を発することが難しくなってしまった宮城さん。生徒の言葉に感情が溢れた。

▽首里高校合唱部 翁長優百さん(2年)
「実際に宮城政三郎さんに会って、二度と戦争を繰り返してはいけないという思いは共通していると思ったので、政三郎さんにその思いを伝えることができたかなと思います」

▽首里高校合唱部部長 仲里伊織さん(2年)
「今回こうして歌う機会があり、戦争を体験していないからこそ、私たちが戦争についてちゃんと向き合って伝えていくべきだなと改めて感じた」

戦争を知らない世代が戦争のない平和な世を願う。若者を突き動かしたのは、自らの辛い記憶を呼び起こし語り続ける元学徒の覚悟だった。

沖縄戦では学徒およそ2000人が動員され、その半数が命を落とした。こうした戦争の記憶を継承していくため、首里高校合唱部の生徒たちはこれからもこの歌を通して戦争の惨さ、平和の尊さを伝えていく。(平良優果)

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