【社説】骨太方針決定 財政再建への覚悟見えぬ

政府が経済財政運営の指針となる骨太方針を決定した。主要な政策課題をめりはりなく並べた構成で「骨太」の看板倒れである。

政治資金の問題や支持率低迷で、岸田文雄首相が政権維持に窮している影響ではないか。政策の重点化や優先順位付けに手が回らず、各省庁にとっての重要政策を寄せ集めしたようで物足りない。

特に、あらゆる政策の礎となる国家財政を立て直す姿勢が不十分だ。

政府は国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)を2025年度に黒字化する目標を維持してきた。この目標が岸田政権で初めて骨太方針に明記された。

過去2年は、アベノミクスを金科玉条とする自民党内の積極財政派への配慮から「これまでの財政健全化目標に取り組む」と表現していた。安倍派の裏金事件などで今年は積極財政派に勢いがなく、ようやく本来の姿に戻った。

骨太方針には、25年度のPB黒字化が「視野に入る」との記述もある。

これは高い経済成長と歳出削減を前提にした希望的観測に過ぎない。例年のように巨額の補正予算を編成すれば、PB黒字化は極めて困難だ。

目標に手が届くかのように装うのは、25年度以降の新たな目標づくりを先送りするためではないか。

日銀はアベノミクスの柱だった大規模な金融緩和策を転換し、マイナス金利政策を解除した。金融政策の正常化を模索中で、今後は金利の引き上げが見込まれる。

「金利のある世界」では、借金頼みの財政運営ができなくなる。金利が上がれば国内総生産(GDP)の2倍を超える借金の利払いが膨らみ、雪だるま式に借金が増える恐れがあるからだ。円が信用を失い、歴史的な円安がさらに進むリスクもある。

政府は最悪のシナリオを直視し、今こそ財政再建に本腰を入れるべきだ。

PB黒字化は財政再建への一里塚でしかない。さまざまな有事に備え、財政余力を高めておかなくてはならない。再建の道筋を示すのは、大盤振る舞いを続けてきた政府の責務である。

骨太方針に新たに盛り込まれた25年度から30年度までの「経済・財政新生計画」が目を引くが、中身は生煮えだ。「経済再生と財政健全化を両立させる歩みをさらに前進させる」では、検証のしようがない。明確な数値目標を打ち出すべきだ。

これから25年度の予算編成作業が本格化するのに、中長期の財政健全化への道筋を示さないのは無責任だ。それどころか「重要な政策の選択肢をせばめることがあってはならない」と、歳出拡大の抜け穴まで用意している。

政府は政策転換を進める日銀と歩調を合わせ、財政規律を取り戻す必要がある。痛みを伴う歳入歳出改革に取り組む覚悟が問われる。

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