廃止…生きた心地しない さいたま、高齢者施設の入居者 「やむを得ない」と議会は賛成多数 転居費用支援も

保健福祉委員会の採決で、「グリーンヒルうらわ」廃止条例議案が賛成多数で可決された=21日午前、さいたま市議会

 埼玉県のさいたま市議会6月定例会の保健福祉委員会が21日開かれ、高齢者福祉複合施設「グリーンヒルうらわ」(緑区馬場)を廃止する条例案の採決が行われ、賛成多数で可決された。本会議でも賛成多数で可決される見通し。同委員会では、施設の入居者らを支援するため、精神面や費用面で寄り添った措置を講じることを強く求める付帯決議が可決された。17日の委員会審議では付帯決議の提出を検討しているとして、討論と採決を繰り延べていた。

 同施設は、介護老人保健施設「きんもくせい」とケアハウス(軽費老人ホーム)「ぎんもくせい」を併設。市は、施設の老朽化に伴う修繕や維持管理に課題が生じていることや介護サービスの民間事業者の参入が進んだことなどを総合的に判断し、段階的にきんもくせいを来年3月、ぎんもくせいを2030年3月に廃止する方針を決めた。

 保健福祉委の討論では、反対意見の会派は年間2億2千万円の指定管理料に対し、年平均の赤字額が8千万円に上っていることに触れ「指定管理料を引き上げ、今まで通り修繕を行うことは福祉行政として必ず行わなければならないこと。やる気がないだけだ」と述べた。一方、議案に賛成する会派からは、修繕コストの面などから廃止はやむを得ないとした上で、利用増額分の費用補償や転所手続きのサポートなどに加えて「入居者にかかる精神的、肉体的負担は甚大で、どこまでも寄り添うことを強く要望する」などと主張する意見が多かった。

 その後、採決が行われ、立憲民主・無所属の会、公明、さいたま自民、自民さいたま、維新、無所属みらい、無所属の賛成多数で可決。共産が反対した。

 付帯決議は2通提出。ぎんもくせいの入居者が、転所に伴い心理的・経済的負担を受けることが見込まれることから、各種手続きについて寄り添ったサポート体制の構築や一人一人の意向尊重、交通費や引っ越し費用を市が負担することなどを求めた。きんもくせい向けには、利用者は入所や通所先の変更を余儀なくされ、被雇用者は転職活動が必要となることから、市執行部と指定管理者が連携し、丁寧に対応することを求めた。

 いずれも全会一致で可決され、ぎんもくせいの入居者向けの付帯決議は本会議にも提出される。

■「最後まで諦めない」

 施設廃止議案に賛成多数の委員会採決を受け、傍聴した「きんもくせい・ぎんもくせい」を守る有志の会の内藤正弘代表(77)は「グリーンヒルは全国の誇れる施設と議員の皆さんの共通認識になっているのに、採決になると、ほとんどが廃止に賛成で非常に残念」と肩を落とした。付帯決議が提出されたが「(付帯決議が)あるからOKではない。一番の安心は施設の存続」と訴えた。

 28日には本会議採決が控える。内藤さんは14日の委員会審議で12人中8人の委員が発言して、施設を廃止しようという意見がなかったことを挙げ、「会派に縛られず、個人の判断で反対してほしいと強く願う」と力を込めた。

 25日にはJR浦和駅東口で廃止方針の撤回を求める署名活動を行う予定。署名は20日時点で1万54筆(オンライン5732、自筆4322)と大台を突破した。認知症の妻(71)がきんもくせいに通う内藤さん。「(施設が)なくなったら困る人がたくさんいる。最後まで諦めない」と力を振り絞るように語った。

 ぎんもくせいに入居する80代女性は取材に、「こういう結果は苦しい。生きた心地がしない」と思いを明かした。

 女性は金銭的な面に加え、施設職員の気配りが行き届いていて、快適に暮らしていた。ところが今年2月に突然、廃止方針を知る。以降は「何をしていても廃止というのが頭にあって、毎日が楽しくない」という。市は今後、入所者の意向に沿って転所へのサポートなどを行う方針だが「ここよりいい施設はないですよ」と首を横に振った。

 女性は「施設に存続してほしいという思いが一番。もしどうしても駄目なら、せめて廃止する時期を3年なり5年なり、延ばしてほしい」と切に願う。

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