「恐れのない組織」とは(6月23日)

 理事長というのは事業主だから「労災保険に入れない」と法人事務局から聞いて驚いた。こんなに無知な私を理事会はよく理事長にしたものだし、また安易に引き受けた自分にも呆[あき]れている。有難[ありがた]いことに、短期大学には事業主経験者や事業経営に詳しい研究者がいて、読むべきテキストを次々と教えてくれた。最も参考になったのはエイミー・C・エドモンドソン著野津智子訳村瀬俊朗解説『恐れのない組織』(英治出版、2021年)である。

 彼女のチームが20年にわたり、病院、工場、学校、政府機関などの職場で「パフォーマンスの差」を研究した成果だ。今日の従業員は、レベルを問わず、協働する時間が20年前に比べて50パーセント増加している。「恐れのない組織」とは、対人関係の不安を最小限に抑え、チームや組織のパフォーマンスを最大にできる組織のことだ。著者は最高のチームに必要なのが「心理的安全性」と強調している。従業員のチームに対する信頼性とは「どんなにひどい失敗や恥ずかしいミスでも、この仲間ならバカにもされないし適切に助けてくれるだろう」という感覚である。また、心理的安全性は、グループごとのリーダーによってつくられる。

 グーグル社は「プロジェクト・アリストテレス」という従業員の最適化のリサーチチームを立ち上げ、180の部署に広範なインタビューを実施した。生産性の高いチームは何が違うのかを調査した結果、そこに「心理的安全性」の有無があった。さらに「心理的安全性」を向上させるリーダーの資質の一つが、「Servant Leadership(サーバント・リーダーシップ)」であった。普段はメンバーに奉仕し目立たないが、メンバーの大きな支えになり、チームの心理的安全性を向上させる。私もこの4月からServant Leaderに求められる10の特徴のうち、次の三つを実践し始めた。

 ①傾聴 メンバーの話にしっかり耳を傾け、メンバーが望んでいることを聞き出す。

 ⑦先見性 過去や現在の流れを見て、大局から物事を捉え、次に起こすことを見通して、方針や筋道を立てる。

 ⑩コミュニティづくり メンバー同士が協働し、共に成長していくための場づくりをする。

 ⑦4月2日、全教職員に向けてこの組織の過去と現在の流れ、そして今後のビジョンを示した。

 ①全教職員との個別面談を、一人ひとりに1時間をかけて始め、⑩その中から改革のプロジェクトチームを立ち上げようとしている。

 折しもローマのバチカンでの会議も、以前のように枢機卿たちが階段教室のようなつくりの会議場にズラッと並ぶのではなく、会場に設定されたテーブルにそれぞれ6名ずつの参加者が座り、対話を始めている。参加者の中には、一般の信徒そして女性も多数含まれている。時代の風は、「対話」と「心理的安全性」に向かっている。(西内みなみ 学校法人コングレガシオン・ド・ノートルダム理事長)

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