「どうしてポジションを変えなければならないんだ…という葛藤もあった」マドリーの背番号8を継承するバルベルデ、“便利屋”からチームの中心へ――

レアル・マドリーに所属するウルグアイ代表のフェデリコ・バルベルデが来シーズン、これまでトニ・クロースが付けていた「背番号8」を継承する。奇しくも宿敵のバルセロナに在籍経験のあるイバン・ラキティッチ(現アル・シャバブ)は、スペイン紙『エル・パイス』のインタビューでふたりの関係について次のように言及している。

「バルデルデは、クロースが教えてくれたものすべてに感謝しているはずだ。フェデはマドリーで2度のCL優勝を経験した。すべてを勝ち取った選手たちに常に導かれながらね」

感謝の気持ちはバルベルデ本人の言葉からも明らかだ。「クロースは僕の家族にとって、常に尊敬と愛情の対象であり続ける。物事がうまくいっていないときには、ちょっとした言葉で元気づけてくれた。彼のような選手はピッチ内外で別れを惜しまれる」
バルベルデは当初、ボックス・トゥ・ボックス型のMFと評価されていた。本来のポジションはインテリオール(インサイドハーフ)だ。しかしジネディーヌ・ジダンも、カルロ・アンチェロッティも豊富な運動量と献身性を買い、たびたび右ウイングに配置。ワイドに張りながら、ルカ・モドリッチやクロースをサポートし、中に入ってボールを受け、ゴール前に顔を出すという多様な働きをこなすことでチーム内での居場所を確保した。

バルベルデは当時を振り返り、「ポジションを問わず、試合に出るという価値観を学んだ。アンチェロッティの下でプレーしはじめた頃は、どうしてポジションを変えなければならないんだ…という葛藤もあった。でも次第に監督から求められている役割を理解し、それに応じてプレーすることを学んだ。監督から別のポジションでの協力を求められたら、それを評価し、理解し、チームのために最大限貢献することを覚えた。マドリーでプレーするのは簡単なことではない。チャンスを掴んだら決して手放してはならないんだ」と語っている。 クロースの周辺を縦横無尽に動き回りながら、後方から配給役を担い、パスやドリブルで局面を動かしてきた近年の働きは、そんなバルベルデだからこそできる芸当だったと言える。ポジションを下げた分、得点数は減少したが、チーム内での存在感は確実に高まった。

マドリーは、「モドリッチとクロースがいなくなった時に正念場を迎える」と長年言われ続けてきた。2023-2024シーズンは、モドリッチの出番が激減する中、クロースが無双し、ラ・リーガとCLの2冠を達成した。しかし来シーズン、その唯一無二のゲームメーカーがいなくなる。アンチェロッティがどのように中盤を再編するか興味は尽きないが、その中でバルベルデが果たす役割は言うまでもなく大きい。

本人も認めているように、これまでは縁の下の力持ち役を買って出ていた。自らが引っ張る立場になれば、磨きをかけてきたパスセンスや視野の広さを活かし、組み立ての局面でもさらに存在感が増す可能性は十分にある。
「勝つことを楽しむ。それこそが僕がここで培ってきたメンタリティーだ。マドリーでプレーするというのは、大きなことを成し遂げ、重要なタイトルを獲得するという希望と夢を持つことだ。何年もこのクラブにいると、それがどんなに大変なミッションであっても、勝利へのハングリー精神を失わずに常に上を目指す姿勢を叩き込まれる」

与えられた役割を黙々とこなすことで、バルベルデは偉大な先輩たちに導かれながら、「マドリーでプレーすること」の意味を学んできた。ポジション、周りのチームメイト、試合展開に応じて表情を変えてきた便利屋が、中心選手として君臨する番になり、どのような姿を見せるか。マドリーのDNAの正統な後継者たる「新8番」のプレーは、来シーズンの注目すべきポイントのひとつだ。

文●下村正幸

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