サウサンプトン内定の高岡伶颯は欧州で活躍できるのか? トップデビューまでの道のりは険しいと言わざるを得ない。だが身体を鍛え、武器を発揮できれば...

6月19日、プレミアリーグのサウサンプトンは公式ホームページで、日章学園の高岡伶颯(3年)と仮契約を結んだと発表した。18歳を迎える来年3月に正式に契約する見込みだ。

昨今、2種年代の選手が高校卒業後に、Jリーグを経由せず欧州へ向かうケースが増加。Jクラブがこぞってオファーを出すようなトッププロスペクトが海外に活路を見出している。

2021年シーズンはDFチェイス・アンリ(尚志高→シュツットガルト)、2022年シーズンはFW福田師王(神村学園→ボルシアMG)、昨季はDF吉永夢希(神村学園→ゲンク)に加え、JFAアカデミー福島U-18のMF花城琳斗(シュツットガルト)が海を渡った。

18歳のタイミングで海外に挑戦することはトレンドの一つになっており、決して珍しい話ではなくなっている。例に漏れず、今季も高校No1アタッカーの高岡がイングランドでプレーする決断を下した。

高岡は4月上旬に日本高校選抜の一員としてデュッセルドルフ国際ユース大会に参加した後に、現地に残ってサウサンプトンのリザーブチームやU-18チームのトレーニングに参加。複数のJ1クラブからも興味を示され、実際に練習参加していたが、日本を飛び出すことにした。

ただ、10代の若者がいきなり海外で活躍するのは簡単な話ではない。語学面や環境への適応も障壁になる場合があり、異文化をスムーズに受け入れられる性格的な要素も海外で成功するためには必要不可欠。そして何より、プレー環境が成長スピードを大きく左右するだろう。

高校卒業後に海を渡った場合、下位カテゴリーからのスタートになるケースが多い。そうなれば、セカンドチームやU-19チームから這い上がらなければならない。下のカテゴリーに籍を置いた場合はその国の3部リーグなどで戦うため、Jリーグで研鑽を積んだほうがプラスと見る向きもある。長年2種年代の選手を追いかけているJクラブのスカウトも、「欧州の3、4部のリーグでプレーするなら、日本で実績を作ったほうがいいかもしれない」と話していた。

もちろん、福田のように早い段階でトップチームに引き上げられれば問題ないだろう。だが、セカンドチームでのプレーが長くなれば、埋もれてしまうリスクや時間を無駄にしてしまう可能性もある。

高岡が所属するサウサンプトンも、U-21チームはサテライトリーグに位置するプレミアリーグ2のディビジョン2に籍を置く。加入後の所属先は不透明だが、下のカテゴリーでプレーする時間が長引けば、困難な状況に陥ったとしても不思議ではない。

では、高岡は早い時期から海外で活躍できるのか――。前述の通り、現状ではどのカテゴリーでスタートするのかが見通せないが、昨年6月に条件が緩和されたとはいえ、そもそもイングランドは労働許可証の取得が難しいことで知られている。

すぐにレンタルで他チームに向かう可能性も否定できない。その前提を踏まえたうえで、今の高岡がすぐにヨーロッパで活躍できるか否かで言えば、トップチームでデビューするまでの道のりは険しいと言えるだろう。

165センチ・62キロというサイズは国内でも小さい部類に入り、海外で考えれば最も小兵のプレーヤーとなる。体幹が強く、バレーボールの選手だった母と、高校時代に興梠慎三(浦和)とともに宮崎県選抜でプレーした経験がある父から受け継いだ身体能力は目をひくが、フィジカルの強化は必須。プロの基準で身体を作り上げたうえで、プレースピードや戦術に慣れる必要があり、強度が高いなかで技術を発揮する術も身につけなければならない。

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だが、早い時期に身体ができあがれば、可能性はある。プレー面でも武器は明確で、機動力とフィニッシュワークが光る。その機動力を活かした仕掛けは高校トップクラス。フィニッシュの精度も高く、ファーストタッチも良い。両足でシュートを打てる点もプラスで、ゴールセンスには天性の感覚がある。

昨秋のU-17ワールドカップで実力は実証済み。ポーランドとのグループステージ初戦(1-0)では最終盤に左足で決勝点を決め、第2戦では圧倒的なプレー強度を持つアルゼンチン(1-3)からゴールを奪うなど、4戦4発と高い決定力を見せた。

また、守備力も魅力のひとつ。最前線から二度追い、三度追いを厭わない。スピードを活かして泥臭くプレスをかけ続ける姿は、FW前田大然(セルティック)を彷彿させる。U-17W杯で2ゴールを奪ったセネガルとの第3戦(2-0)では、前線からのハイプレスでGKからボールを奪ってネットを揺らしており、高岡の持ち味が詰まったゴールだった。

異国の地で身体を鍛え、武器が活きるようになれば、早期のステップアップも夢物語ではないだろう。

また、ピッチ外のところでも強みがあり、海外向きのメンタリティを有している。語学の習得はマストだが、オープンな性格で、コミュニケーション能力は高い。謙虚な姿勢を持ちながらも、負けず嫌いな一面を持っているのも好印象。地道に積み上げていく努力家でもある。課題と思えば居残りで黙々とトレーニングに励む姿は、海外で戦ううえでもプラスに働くはずだ。

全ては自分の未来のため――。シーズン前に話を聞いた際に高岡はこんな言葉を残していた。

「最終的な目標はワールドカップで優勝すること。A代表で優勝したいという思いがあるので、どれだけ時間がかかっても、最終的にそこに辿り着きたい」

高校年代でも今季は圧倒的な結果を残しており、コンディションは良好だ。「ぶっちぎる」をテーマに同年代を凌駕すると覚悟を決め、ゴールを量産。代表活動やプロの練習に参加した関係でリーグ戦は出番が限られたが、6月上旬のインターハイ予選決勝では自身の2発も含めて、全3得点に関与して優勝に貢献した。

新たなチャレンジを決めた男の物語はまだ始まったばかり。目標を達成すべく邁進する17歳が、異国の地でどのような道を歩んでいくのか注目だ。

文●松尾祐希(サッカーライター)

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