「止まらない。家族に言えなかった」ギャンブル等依存症のメカニズムと回復支援の現場

厚生労働省によりますと「ギャンブル等依存症」とは公営ギャンブルやパチンコなどにのめり込みすぎて生活に支障が生じている状態のことを指します。「ギャンブル等依存症」に関する関係機関への相談はここ数年、増加傾向を辿っていて、2022年には全国で7千件以上の相談が寄せられています。

長崎県内でも2万人以上にその疑いがあるとされるギャンブル等依存症、当事者の声や回復に必要な支援について取材しました。

県内におよそ2万3千人(2020年調査)。県がまとめたギャンブル等依存症の疑いがある人の数です。そのきっかけは様々です。

回復施設に入居している人:
「友達に誘われたのがきっかけでそこでビギナーズラックになって」

「高齢者とのコミュニケーションの一環として話してたときに、その人が近くに競輪場があるよということで今度1回体験しようと」

「アニメの名前がそのままパチンコ台になってて…それなんか面白そうだなというのがきっかけで」

「遊び半分にしてたものが依存って言われるまでになってしまって」

「止められない」コントロールできないメカニズムは

気軽に始めたつもりが気が付くと抜け出せなくなってしまうギャンブル等依存症。そのメカニズムは──

長崎県精神医療センター大塚俊弘院長:
「意志力や精神力では、その行動がコントロールできなくなる病気。『今度こそ気合入れてやめてみせるぞ』とか『深く反省して二度とやらないぞ』って誓ったからと言ってやめるようにはならないというところが一番問題の病気ですね」

ギャンブル等依存症は心ではなく《脳の機能障がい》と言われていて「ギャンブル障がい」という正式な病名も付けられています。

脳の《神経回路の異常》が原因と言われていて、入院中など《ギャンブルができない環境》では欲求がなくなるものの、日常生活《ギャンブルができる環境》に戻ると自分の意志では欲求を抑えられなくなるおそれがあるといいます。

回復施設に入居している人:
「最初は自分の小遣いとか給料だけでやってたんですけど、どんどんのめり込んでいくうちにですね、周りが見えなくなっていって、金銭感覚もどんどんおかしくなっていって。もう給料出たその日に全部使うっていう(ことが)多々あった」

お金を借りるのは悪いことだと思うのに止まらない

依存症の疑いがある人のおもな特徴です。

●ギャンブルのことを考えて仕事などが手につかなくなる
●負けた分は別の日に取り返そうとする
●のめり込みを隠すためにウソをつく

実際に当事者に話を聞くと「心当たりがある」という人も──

「仕事をしていてもギャンブル、ギャンブルがしたいという気持ちが強く(会社に)『辞めます』という連絡も入れずにそのままギャンブルに走りました」

「負けたときは次の日に行って取り戻さなければならないかなという気持ちで行っていました」

ギャンブルのために金を借りてしまう自分を責め続けた男性は──

男性:「人にお金を借りるのも悪いことだって認識はあってもやっぱりそれが止まらない。自分が何か情けないというかダメなんじゃないかって思って。その苦しさが僕はもう死ぬしかないって思ってたんで、ただ家族とかやっぱりそういう人たちの顔が思い浮かぶんで死ねなくて。だから余計泣くしかなかったです。もうとにかく泣いて泣いて泣くしかなくて」
記者:「それでもやっぱり家族とかには言えなかった?」
男性:「言えなかった」

一度、ギャンブル等依存症になってしまうと自力での回復は難しく、周りの人や関係機関の協力が必要となってきます。

ギャンブル以外の楽しみを見つけ 人と喜びを共有する

薬物やアルコール、ギャンブルなどの依存問題を抱える人の支援をしているNPO法人 長崎ダルクの回復施設「グラフ・ながさき」では、ギャンブル等依存症の当事者が共同生活を送りながら回復に向けたプログラムに参加しています。

長崎ダルク法人代表理事 中川賀雅さん:
「自分にとって今日一日ギャンブルをやらないで良い生活を送るためにはどういう生活が必要か、何を大事に思うのかっていうことを共同生活やプログラムをやりながらご自身が発見していくっていうのがすごく大事なことだと思いますね」

長崎ダルクでは回復プログラムの一環で、バーベキューや釣り、誕生日会などを行っています。みんなで協力し人と喜びを共有することの大切さを感じることで、生活の中でギャンブル以外の楽しみを見つけてもらうのが目的です。

当事者には自分の状況や状態を言葉にするのが苦手な人も少なくありません。そのためまずはグループミーティングで自身を見つめ直す機会を設けています。

長崎ダルク 中野朋子さん:
「やったーって思った瞬間を聞いてみましょうか」

当事者:「釣り。釣りの才能があった」
中野さん:「釣りね。大きい魚が釣れた」

当事者:「タクシー会社に就職するんですけど、どうしても二種免許がいるじゃないですか。一発で受かったときは自信がつきました」
中野さん:「二種免許の話もそうだけど(自分が)やろうと決めてそれをやり遂げると自信がつくそうなんです」

中川さん:
「グループミーティングとか当事者研究に参加していくうちに『それだけじゃない、もっと深い問題が自分の中にあったんだ』と(気づく)。その問題は果たして《自分の中で解決できるもの》なのか、それともその問題を受け入れて《生き方というか捉え方を変えていく必要があるのか》っていうことを自分の中で精査していくことが、ここで費やす時間にはもっとも必要」

入居者の中には《仲間との活動》を通して気持ちに変化が現れた人もいます。

当事者:
「仲間がいたり、自然にだんだんそうやって過ごしていく中で、周りにも社会の人でも分かり合える人がたくさんいるんだって思うことが多くなってきて。最近自分だけが一人じゃないんだなって思うようになってきましたね」

「ここにいたら色んなことが起こる。結構面白いんですよ。結果、ギャンブルがと止まってて」

まずは当事者本人が一人で悩むのではなく勇気を出して誰かに相談することがギャンブル等依存症から抜け出すための第一歩。合わせて周りの人が本人の意思の問題ではなく病気だと正しく理解することが回復への近道と言えそうです。

厚生労働省によりますと、ギャンブル等依存症の人に対して
・借金を肩代わりする
・「やめられないなんて意思が弱い人なんだ」などと言ったりすると、依存症の回復を遅らせたり悪化させたりするおそれがあるということです。

県ではギャンブル等依存症に悩んでいる場合は自分だけで解決しようとせず、支援センターや回復施設、県内の各保健所などに相談するよう呼びかけています。

相談電話番号

長崎県長崎こども・女性・障害者支援センター
精神保健福祉課 TEL 095-846-5115

長崎ダルク(回復施設グラフ・ながさき)
TEL 095-800-2923

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