焦点:左派躍進を市場は警戒、フランス下院選 極右より高い財政リスク

Yoruk Bahceli

[25日 ロイター] - フランスの金融市場では、30日に第1回投票が実施される国民議会選挙(下院選)について、世論調査で首位を走る極右政党「国民連合(RN)」よりも、2位の左派連合「新人民戦線(NFP)」の方が財政面でリスクが高いとの見方が一部で浮上している。

一部の市場関係者は、特定の政党を勝たせたくないと考える有権者の戦術的投票により、NFPが来月7日の決選投票で予想以上に健闘し、新政権の一翼を担う可能性があると指摘。

ロイヤル・ロンドン・アセット・マネジメントのポートフォリオマネジャー、ガレス・ヒル氏は「市場にとって最悪の結果は、左派が過半数を確保することだ。これはテールリスクだ」と述べた。

NFPは今年の公務員給与の10%引き上げ、定年退職年齢の64歳から60歳への引き下げといった政策を掲げており、歳出を段階的に増やし、2027年まで年間1500億ユーロ(1604億4000万ドル)を上乗せする意向を示している。

財源については、相続・富裕層・多国籍企業に対する増税で完全に賄うと説明。NFPの関係者は先週、政権を樹立できた場合、財政赤字は増やさないが、減らすこともないと述べた。

市場関係者はこうした方針を懸念。フランスの昨年の財政赤字は国内総生産(GDP)比5.5%と、欧州連合(EU)が上限とする3%を大幅に上回っており、欧州委員会がすでに財政規律違反の是正を求めている。。

これに対し、RNで財務担当責任者を務めるジャン=フィリップ・タンギー議員は、政権を獲得した場合は長年にわたる財政赤字の拡大に歯止めをかけ、EUの財政ルールを順守すると強調。27年までに財政赤字を3%まで削減する現在の計画を維持し、財政の会計検査も行うと述べた。

前出のヒル氏は、RNが政権を取った場合に実際にどのような行動に出るかは分からないが、少なくとも財政責任に言及していることは「安心感を誘う」と述べた。

<ユーロ相場にも影響>

市場関係者がRNの掲げる政策をコスト面で懸念していることは間違いない。

RNはエネルギー製品の付加価値税(VAT)引き下げや定年退職年齢の60歳への引き下げなどを計画しているが、退職年齢引き下げについては、20歳未満で就業した人に限定すると最近述べている。財源は官僚主義の是正、税の抜け穴への対処、移民の社会福祉制限で賄えるとしている。

野村のエコノミストは、NFPが首位に立つよりもRNが過半数を獲得したほうが金融市場で歓迎されると指摘。たとえ少数与党でもNFPが政権を樹立すれば、金融市場にとって最悪の結果となり、フランス国債とドイツ国債のスプレッドが一段と拡大するほか、ユーロ相場の悪材料にもなるとの見方を示した。

野村のエコノミストは「NFPはいろいろな意味で、財政の健全性を維持する制度を公然と拒否しており、(2022年に財源の裏付けのない減税案を発表して英国債市場の混乱を招いた)トラス元英首相に似ている」と指摘した。

ジェフリーズのエコノミストは、NFPに参加する極左政党「不服従のフランス(LFI)」の躍進を原動力にNFPが勝利を収めれば市場にとって「最悪の結果」になると指摘。

この場合、EUとの衝突が増える可能性があり、フランス国債の対ドイツ国債スプレッドが現在の約70ベーシスポイント(bp)から最大120bpまで拡大すると予想した。このシナリオの確率は20-25%という。

ジェフリーズはRNの絶対多数確保などの想定される様々なシナリオに対し、市場のネガティブな反応は長くな続かないとして下げ局面での買いを推奨しているが、LFI主導でNFPが勝利するシナリオについてはこの推奨ができるか不透明だとしている。

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