笑いと特殊メイクで定番ホラーの流れを変えた ジョン・ランディス監督、執念の一本 『狼男アメリカン』

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飯塚克味のホラー道 第82回『狼男アメリカン』

若い二人のアメリカ人男性が、休暇で訪れたイギリス、ウェールズ地方の田舎で、夜間、獣に襲われ、一人は死に、一人は一命をとりとめる。だが生き残った方は、満月の夜になると狼男に変身してしまう。何ともオーソドックスな『狼男』映画のスタイルだが、本作には笑いと、変身シーンにおける特殊メイクという2つの武器があった。

監督を担当したのはジョン・ランディス。若い世代は知らない人が多いだろうが、コメディ映画『ケンタッキー・フライド・ムービー』(1977)、『アニマル・ハウス』(1978)を連続して大ヒットさせたコメディ映画界のレジェンドだ。中でも1980年の『ブルース・ブラザース』は空前の大ヒット。日本でも未だファンが多く、今でもリバイバル公開されるほどだ。そんな彼が、かねてより考えていたホラーとコメディのミックスに挑戦したのが本作なのだ。

そんなジョン・ランディスが脚本を書き上げたのは、まだ監督デビューする前の1969年。特典で本人が語っているので、10年越しの念願の企画だったはずだ。だが資金集めに苦労している間に、やはり狼男を扱った『ハウリング』(1981)の企画もスタート。ランディス監督に仮押さえをされていた特殊メイク担当のリック・ベイカーは、『ハウリング』側から声をかけられ、一度はそちらに参加する決意をしてしまう。だが、ランディス監督側の製作も動き出したことで、リック・ベイカーは元に戻り、『ハウリング』は当時ベイカーの助手だったロブ・ボッティンが担当することになる。

こうしてほぼ同時期に2つの狼男映画が世に出ることになったのだが、どちらも見事な変身ぶりで、映画ファンの度肝を抜いた。手足の爪が伸び、顔面や体格がみるみる変貌していく。しかし両者の間には明らかなスタイルの違いがあり、見比べると実に面白い。『ハウリング』が暗い部屋で変身するのに対し、『狼男アメリカン』は電気が煌々と付いた明るい部屋で変身するのだ。照明を存分に浴び、肉体が変貌していく様子を、苦痛と共に克明に描写していく本作が、アカデミー賞に輝いたのも納得できるだろう。

本作で狼男に変身するのはデヴィッド・ノートン。本作以降、スポーツアクション『ホットドッグ』(1984)や『地獄の女アンドロイド』(1991)など、大作への出演こそないがコンスタントにキャリアを重ねている。冒頭でいきなり殺されてしまう友人役にグリフィン・ダン。マーティン・スコセッシ監督の『アフター・アワーズ』(1985)やマドンナと共演した『フーズ・ザット・ガール』(1987)で強烈な印象を残した俳優だ。ノートンに恋する看護婦役はジェニー・アガター。最近では『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014)で、スカーレット・ヨハンソンが変装している組織の重役を演じたので、記憶している人もいるはずだ。

冒頭にも書いたが、『狼男アメリカン』は所々にユーモラスな描写が散りばめられているのが特徴だ。中でもユニークなのが、死んだはずのグリフィン・ダンが、ノートンに「お前も狼男になるから、早く自殺しろ」と警告に来る場面。最初は殺された時の姿で、登場するたびに身体が腐っていくのがよく分かるようにメイクされている。もしかしたらオスカーを受賞したのは、こちらのメイクの出来が良かったからかもしれないと思わせてくれる。

日本での公開は1981年6月8日。『ハウリング』の初日は同年5月23日だが、この日は『ニューヨーク1997』(1981)と『オーメン/最後の闘争』(1981)、そしてその年最大のヒット作『エレファント・マン』(1980)も公開され、『狼男アメリカン』は公開時、大きな話題になることはなかった。だがこうして語り続けられ、ソフト化が繰り返されていることからも、どれだけ多くの人に愛され続けているか、分かってもらえるのではないか。

あと付け加えておきたいのが、本作の後にジョン・ランディス監督が手掛けたのが、マイケル・ジャクソンのMTV大作『スリラー』だったこと。特殊メイクはもちろん本作のリック・ベイカー。世界を変えたMTVと本作の密接な関係を想像するのも一興だ。

「ユニバーサル 思い出の復刻版」としてリリースされた今回のブルーレイには、以前のソフトにも収録された膨大な特典と、水曜ロードショー枠で放送された日本語吹替版も収録。また映画雑誌「スクリーン」の紹介記事や、双葉十三郎氏の遠慮のない評論、新聞広告を収めたブックレットも封入されている。是非、映画本編と共に味わい尽くしてほしい。

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飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、WOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出を担当した。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【商品情報】
『狼男アメリカン』思い出の復刻版ブルーレイ
Blu-ray: 5,720円 (税込)
発売元: NBCユニバーサル・エンターテイメント
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