「後世につなげたい」日本の食文化伝える映画「鯨のレストラン」石巻で上映へ〈宮城〉

6月28日から石巻市で、クジラ料理の魅力や捕鯨文化を伝えるドキュメンタリー映画が上映されます。監督は東日本大震災発生当時、石巻でボランティア活動に取り組んだ経験もあり「誇るべき食文化に目を向けてほしい」と話します。

ドキュメンタリー映画「鯨のレストラン」。都内にあるクジラ料理店の店主と客の会話を通じて、クジラ料理の魅力やたんぱく源としての栄養価の高さを伝えます。そして・・・

作中に登場する専門家
「大量消費できるものだけにものが絞り込まれてしまうと、世界の生物多様性から出てきた生物をうまく人間が消費できていないということになりがち。問題になる」

国内外のさまざまな有識者のインタビューやデータを盛り込み、捕鯨文化や環境問題について見つめ直す作品です。撮影の舞台ともなった石巻市鮎川。国内有数の捕鯨基地として知られ、かつては“クジラの町”として栄えました。クジラ文化を紹介する「おしかホエールランド」にはマッコウクジラの標本などが展示されています。

八木景子監督
「手みたいに見えますけど、昔クジラが四つ足だったというのも今回初めて知った。哺乳類、海に住む哺乳類」

映画を制作した八木景子さん。東京都出身で、元々、石巻や捕鯨文化に関わりはありません。映画配給会社に勤務していましたが、監督経験もありませんでした。そんな八木さんを制作に駆り立てたものは“憤り”でした。

八木景子監督
「実は国際会議で日本がいじめに遭っているだけだった。科学でも何でもないということを知って憤りが募って。反捕鯨家に対してと、物を言えない日本人両方に対して、どうなのかと」

2014年。国際司法裁判所で、日本の調査捕鯨は「科学的な目的に沿っていない」と指摘され、南極海での調査捕鯨の中止を命じられました。八木さんは自ら反捕鯨団体に接触するなどして日本敗訴の背景を取材。クジラの生息数などについて誤った認識が国際的に広がっていると感じたため、データなどの科学的根拠を示し、世界に反論する映画を2015年に制作しました。2作目となる今回は、クジラ料理を切り口に捕鯨文化を見つめ直す内容です。

八木景子監督
「クジラが少なくなってるかもしれないとか水銀だらけっていうのは欧米によるプロパガンダ映像によってなんですね。映像にやられた先入観を映像で返すという感じ。縄文時代から続いている日本のクジラの食文化に気づいてもらいたい」

映画では、クジラの解体シーンもありのままを撮影し、上映しています。

八木景子監督
「撮影ご協力いただき、ありがとうございました」

クジラ食品の直売所も営む捕鯨会社「鮎川捕鯨」。解体の様子は反捕鯨家から「残酷だ」という反発を受けることも考えられましたが、八木さんの熱意と行動力に触れ、撮影の場を設けました。

鮎川捕鯨 伊藤信之社長
「自分の思いとしては先人がつないできた地元の捕鯨を後世につなげていく。それだけしかない」

戦後の食糧難の時代から、クジラは貴重なタンパク源として学校給食でも出される身近な食材でした。しかし、1970年ごろから欧米を中心に「反捕鯨」運動とクジラの捕獲規制が強まり、年々供給量が減少。ピークの1960年代には23万トンあった国内の消費量は1パーセントにも満たない0.2万トンほどにまで落ち込みました。

30代と40代
Qクジラを最近食べましたか?
「最近は食べてないです。食べられるところが分からない。売ってない?いま食べちゃダメなのかなって。何かあったよね」
60代
「60歳過ぎていますけど、クジラで栄養いただいた世代だったのですごく馴染みありますし、竜田揚げだったり刺身だったり食べた記憶あります」
20代
Qクジラ食べたことありますか?
「ないです。もっと身近に食べられる感じになってもいいのかなって」
20代
「あんまりクジラを食べるってことが浸透していない」

八木景子監督
「ここら辺で…こういうところの泥かきが多かった」

八木さんは東日本大震災発生当時、石巻市で食料の配布や泥かきなどのボランティアに取り組みました。

八木景子監督
「震災当時は映画監督でもなければ(鮎川が)捕鯨基地だということも知らなかった。捕鯨のことを調べていったら日本最大の捕鯨基地が宮城の石巻だと知って、“これは呼ばれている”というかそういう感じだった」

そうした石巻との縁もあって制作した映画。去年から都内などで公開が始まりましたが、上映先が見つからず、宮城の人たちに見てもらう機会を作ることはできていませんでした。
そうした中、今回上映を決めたのは「イオンシネマ石巻」。大手シネコンがインディーズ映画を上映するのは異例のことだといいます。

イオンシネマ石巻 総支配人 入江悠平さん
「石巻の話だけではなく、すべての人たちに向けた映画であるってことはもちろん話として理解できたので、こういう文化があるんだというのを訴えかけてもらう。そういった意味ではすごく意義のある映画なのかなってことで今回賛同させていただいた」

地域が誇る食文化を改めて知り、次の世代につなぐきっかけにしてほしい。地元の思いも詰まった映画「鯨のレストラン」は、6月28日から上映されます。

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