“ゆあビーム”炸裂の田宮裕涼、交流戦首位打者の水谷瞬――今季ブレイクを果たした2人が「ダイヤの原石」だった頃<SLUGGER>

2年連続最下位から一転、今シーズンは開幕から上位争いに加わっている日本ハム。そんなチームにあって、驚きの活躍を見せているのが田宮裕涼と水谷瞬の二人だ。

田宮は昨年までの5年間でわずか31試合の出場で通算13安打と二軍暮らしが続いていたが、今シーズンは開幕から正捕手に定着するとヒットを量産。ここまでリーグ2位となる打率.326をマークしている(6月26日終了時点)。盗塁阻止率もリーグトップの.412を誇るなど、守備面での貢献度も非常に大きい。まさに攻守の要と言える存在となっているのだ。

一方の水谷も、昨季まで在籍していたソフトバンクでは5年間で一軍出場は1試合もなかったが、昨オフの現役ドラフトで移籍すると二軍で結果を残して5月下旬からは外野のレギュラーに定着。セ・パ交流戦では15試合連続ヒットを放ち、歴代最高打率となる.438をマークし、交流戦MVPを受賞したのだ。現役ドラフトで移籍した選手では、昨年の細川成也(DeNA→中日)に匹敵するブレイクと言えるだろう。

この2人は同学年で、ともに高卒6年目ということでも共通している。では、彼らの高校時代に現在の活躍に繋がる片鱗はあったのだろうか。

まず田宮だが、千葉の成田高校で下級生の頃からレギュラーとして起用されており、当時から県内では評判だった選手である。私が初めてプレーを見たのは2年春の県大会、対専大松戸戦だった。この試合で3番・キャッチャーで出場した田宮は2本のヒットを放ち、盗塁も決めるなど活躍。また、守備でも2.00秒を切れば強肩と言われるイニング間のセカンド送球で1.9秒台を連発するなど、スローイングも高いレベルにあった。 この年の12月に行われた千葉県選抜チームの台湾遠征でも主将を務めており、その壮行試合では現在、楽天でプレーしている清宮虎多朗(八千代松陰)などとバッテリーを組み、攻守に存在感を示している。3年夏の東千葉大会では決勝で敗れて惜しくも甲子園出場は逃したが、6試合で11安打、2本塁打、打率.524という見事な成績を残している。ドラフトの指名順位は6位だったが、「意外に低かった」という感想を持ったのをよく覚えている。守備、打撃ともに高校から支配下指名でプロ入りするのに相応しいだけの力を持っていたことは確かだ。

ただ、3年夏に素晴らしい成績を残しているものの、打撃に関してはそこまで圧倒的な力がある選手だったという印象はない。現役で高卒の攻撃型捕手としては森友哉(オリックス)や、プロ入り後に外野にコンバートされた近藤健介(日本ハム)がいるが、彼らの高校時代と比べられるようなレベルではなく、同学年の石橋康太(関東第一→中日)の方が選手としてのスケールが大きかったことは確かだ。

また、守備に関しても強肩ではあったものの、驚くようなスローイングをするわけではなく、現在話題の“ゆあビーム”のような凄さはなかった。これまでの5年間で地道な努力を積み重ねた結果が今年大きく花開いたと見るのが妥当だろう。
そしてもう一つ、田宮にとって大きいのがドラフト2位ルーキーの進藤勇也の加入ではないだろうか。進藤は3年時から大学日本代表に選ばれていた選手であり、近年の大学生キャッチャーでは間違いなくNo.1の大物である。そんな選手が入ったことで危機感を持った部分もあったはずだ。進藤も二軍ではレギュラーとしてプレーしており、今後数年にわたってレベルの高い正捕手争いが繰り広げられることになりそうだ。

水谷は愛知県出身だが、高校は島根の石見智翠館に進学。レギュラーになったのは2年秋からということもあって、田宮と比べても全国的な知名度は高くなかった。その評判が聞こえ始めたのは3年になってからで、春の中国大会ではチームは初戦で宇部鴻城に敗れたものの水谷自身はホームランを含む3安打の活躍を見せている。

残念ながら高校時代の水谷を現場で見ることはできなかったが、当時のプレーを映像で見た印象としては、現在のチームメイトである万波中正とイメージが重なるという印象を持ったことをよく覚えている。上背はあるものの体つきはまだ細く、スイングに関しても上半身とリストに強さに頼った部分が多く、対応力には疑問が残った。実際、3年夏の島根大会も5試合で2本のホームランは放ったものの、打率は.263に終わっている。 水谷にとって後押しとなったのがソフトバンクのチーム事情ではないだろうか。当時のチームは黄金時代の真っ只中にあり、中途半端な即戦力よりも、時間はかかってもスケールの大きい未完の大器タイプを多く指名していたのだ。吉住晴斗(17年1位)、杉山一樹(18年2位)、小林珠維(19年4位)、笹川吉康(20年2位)、田上奏大(20年5位)などがまさにそんな選手である。

また、水谷にとってもう一つ幸運だったのはソフトバンクの恵まれたファーム環境で力をつけ、ある程度一軍で戦える実力がついた段階でチャンスの多い日本ハムに移籍できたことだろう。まさに現役ドラフトの狙いにマッチした選手と言えるのだ。

ただ、実際にはチャンスをモノにできる選手ばかりではなく、水谷の移籍してからのアピールも見事だったことは確かである。特に4月に一度二軍に降格してからも、イースタン・リーグでの成績を落とすことなく打ち続けた点は大きかったと言えるだろう。

プロ野球では段階を踏んで成績を伸ばすのではなく、いきなりブレイクするケースの方が多いが、二人揃ってここまで急激に成長した例はそうそう多くはない。残りのシーズンも彼らがチームの命運を握る存在であることは間違いないだろう。

文●西尾典文

【著者プロフィール】
にしお・のりふみ。1979年、愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。アマチュア野球を中心に年間400試合以上を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

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