情報BOX:ウクライナに来月F16到着、戦況は変わるか

Anastasiia Malenko

[キーウ 27日 ロイター] - ウクライナがおよそ2年前から西側諸国に供与を求めていたF16戦闘機の第1弾が来月、ようやく到着する。

F16の調達からウクライナ軍操縦士の訓練を経て、実戦飛行に移行するまで長時間かかったことにウクライナ側は不満を募らせていた。

ロシアにとっては、F16投入の効果を無効にするための防衛態勢を築く時間を確保できたし、ウクライナは敵と比べて規模や練度で相当劣勢な空軍力で対抗せざるを得なかった。

F16がウクライナにどのような追い風をもたらすか、また効果的な配備を進める上でなおどんな課題があるのかを以下にまとめた。

◎潜在的な効果

何人かの専門家は、F16だけでは戦局転換にはつながらないと話す。

戦略国際問題研究所(CSIS)で国際安全保障プログラムのシニアアドバイザーを務めるマーク・カンシアン氏は「戦場における象徴的な効果と実質的な効果を分けて考えなければならない。有効だろうが、貢献度はほどほどだろう。特に当初はその度合いは小さい」と述べた。

非政府調査機関ウクライナ安全保障協力センターのセルヒー・クザン会長は、ウクライナがロシアの航空機を国境まで押し戻す上では、少なくとも60機のF16が必要になるとの見方を示した。

さらにウクライナ議会で武器や軍需物資の問題を扱う委員会を率いているオレクサンドラ・ウスティバ氏は、ウクライナの空軍力を大幅に強化するには、120機近いF16が必要と訴えている。

複数の専門家の話では、少なくとも第1弾のF16到着によってウクライナの防空能力は高められる。

英王立防衛安全保障研究所(RUSI)のジャスティン・ブロンク航空戦力・技術担当上席研究員は「ある程度防空能力に厚みをもたらし、(イラン製無人機の)シャヘドや各種巡航ミサイルの迎撃に役立つだろう」と予想する。

前出のクザン氏によると、ウクライナ軍はここ数カ月、ロシアの防空システムに攻撃を加え、F16にとっての脅威を懸命に低下させようとしている。ウクライナは、ロシアが最前線に配置している防空施設を組織的に攻撃する能力を備えているという。

ただCSISのカンシアン氏は、ウクライナはF16による攻撃予定の直前のタイミングで、ロシアの防空網の「穴」をこじ開けようとするとの見通しを示した。

◎操縦士訓練と維持補修

今後は操縦士の訓練が重要になる。

RUSIのブロンク氏は「多数の高速戦闘機があっても、有効な兵器やそれらを効果的な戦術で使用できる操縦士が存在しなければ、次々と撃墜されるだけだ」と話す。

70機余りの引き渡しや供与の約束に関して、主に議論されたのはウクライナ軍の操縦士の訓練にかかる時間だった。

ウスティノバ氏によると、年末までにF16を操縦できる操縦士は少なくとも20人になる見込み。

同氏は「操縦士がそろわない時点でそれ以上の戦闘機を求めるのは難しい」と述べ、最初は操縦士よりF16の数が多くなると付け加えた。それでも操縦士の訓練が完了するまで待っているわけにはいかないと強調する。

米高官らは、操縦士は欧州でも訓練可能だと指摘している。しかしブロンク氏の分析では、北大西洋条約機構(NATO)の対応能力は既に限界に達した。

またブロンク氏は、操縦士の訓練以上に差し迫った問題はF16の維持補修だと付け加えた

維持補修作業の大半はウクライナ国内で行わなければならず、恐らくはF16に精通している外国の防衛企業に依存することになる、というのが同氏の見方だ。

◎脅威にさらされる空軍基地

専門家の話では、ロシアは既にF16が配備されたり、維持補修に使われたりする可能性がある施設への攻撃を強化している。

クザン氏は「ロシアはF16の基地になりそうな全ての飛行場を毎日攻撃し、滑走路や各種施設に打撃を与えようとしている。少なくとも過去2カ月は、この種の攻撃が中止されたことはない」と述べた。

F16の機体や操縦士、維持補修チームが到着すれば、こうした施設はより重要性を増す。そのためウクライナ側も、全般的な防空兵器と弾薬の不足にもかかわらず、航空施設を守るためのミサイル配備を迫られる公算が大きい。

クザン氏は「民間施設が攻撃を受ける恐れがある場合でも、飛行場の守りを十分に固めることになるという事実を受け入れざるを得ないだろう」と語り、各基地には最低でもそれぞれ2組の地対空ミサイルシステム「パトリオット」と「NASAMS」が必要だと指摘した。

同氏によると、ウクライナにとって空軍力が強化されるまであと数カ月は厳しい状況に置かれるという。

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