弊害、高齢 かつて批判 自身の信条 生じた矛盾 ㊦多選

新採用職員を前に訓示する福田知事。「若いエネルギーを持った皆さんの力が必要不可欠」と激励した=4月1日、県総合文化センター

 6選出馬へ調整-。5月中旬、沈黙を保つ福田富一(ふくだとみかず)知事(71)の去就報道に、県関係者の心はざわついた。「年齢的に終わりが見えているトップに誰がついていくのか。県政が停滞しかねない」。実績だけで高齢多選批判はかわせない。

 県政史上異例の長期政権に、懸念や不満は漏れ出ている。「幅広く意見を聞き、波風を立てない結論にたどり着く」。県幹部OBの目には、福田氏の無難な県政運営が消極的に映る。自民党の元県議は「知事の固定化で人材が育たない。トップの交代は必要だ」と新陳代謝を求める。

 全国知事会によると、知事の歴代最長は8期。現職では5期が最も長く、福田氏を含め5人いる。福田氏は本県知事で最多の当選回数を誇る。

 法律上、在任期間に制限はない。ただ東北大の河村和徳(かわむらかずのり)准教授(政治学)は3期12年が理想とみる。それ以上の多選になれば「職員は県民よりも上(知事)を見て動くようになる。幹部ならば、なおさらだ。『無敵』になった知事に意見できる議員もいなくなる」と指摘する。

 行政の硬直化、政策の独善化などが多選の弊害とされる。知事1強の下、議会がオール与党化すれば、行政監視機能の低下を招きかねない。

 栃木県庁では、自己都合で退職する若手や中堅が目立っている。2023年度は20代21人に上り、19年度の4倍に増えた。将来を嘱望された“エース級”の退職もあり、マンネリ化した組織の影響と漏らす関係者もいる。

 「青年政治家の頃は高齢多選を批判していた。ミイラ取りがミイラになった」

 6選出馬を正式表明した21日の記者会見で、福田氏は政治信条の変遷を認めた。長く同じ座に居続ける権力者を戒める「権腐十年」を旨としてきた福田氏。口にした言葉に、自虐と自省がのぞいた。

 福田氏は「(周囲の忖度(そんたく)が)全くないかと言われればあるかもしれない」とも話した。「多選の弊害が出ないよう気を引き締めていく」と自戒するが、その効果は見えにくい。

 6選出馬は、4年前と変わらず後継や多選の問題を露呈した。前回5期目を託した有権者に、福田氏の決断はどう映るのか。多選を納得させる取り組みを県民に示せるのか。福田氏の公約が注目される。

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