<1>「救われた」耳にし実践 子ども食堂開設 希望って何ですか

子ども食堂「ほうぷけん」の会場となったまちなか支局の入り口。開店を控えチラシを貼りだした=5月10日、宇都宮市

 「自分たちでやってみればいいんじゃないですか」

 「希望って何ですか 続・貧困の中の子ども」を連載する子どもの希望取材班は昨年秋、10年前の取材班の1人がデスクとなり、3人のメンバーを一新して発足。職場で、取材帰りの車中で、仕事終わりの居酒屋で「あるべき子育て環境」に考えを巡らせるうちに、自分たちで何かを実践する考えが浮かんできた。

 共働き家庭の増加によって子どもと接する時間的余裕のない親が増えている。地域コミュニティーの希薄化や、核家族化によって親以外の大人と子どもが関わる機会も減っている。言われて久しい現代の姿だ。

 私たちはどのような環境で育ってきたのか。取材で出会う子どもたちの姿を見るうちに、自然と自分たちの生い立ちも振り返った。

 緑豊かな山間の茂木町で子ども時代を過ごした上野貴朗(うえのたかあき)記者(28)。中学生の頃は自転車で下校していると毎日のように、地域のお年寄りから「お帰り」と声をかけてもらっていた。子どもを気にかけてくれる大人の存在を身近に感じながら育った。

 「豊かだね」「ユートピアじゃん」。取材班の他のメンバーの頭の中に光景が浮かぶ。同時に、こうした環境を再構築するのは難しいという考えももたげる。

 でも、支えを必要とする子どもや親には地域とのつながりが必要だ。そのきっかけをつくれないか。加えて、自分たちにできそうなこと。

 地域住民が集える「子ども食堂」の運営に挑むことにした。

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 取材班の3人は取材・執筆の合間を縫い、食品衛生責任者の講習を1日かけて受講。県内の“先輩”子ども食堂に何度も教えを請いに行った。必要なスペース、食材以外にもおもちゃなどの必需品の用意。万が一の事故に備え、賠償保険の加入も必要だ。

 実現までに必要なプロセスが分かってきた一方で、連載に追われてしまい肝心の準備が進まない。会場として想定していた宇都宮市中心部にある「まちなか支局」が移転することもあり、情けないことだが開催に向けた意気込みは一時期、確実に小さくなっていた。

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 一方、取材では子ども食堂のほか、衣食、入浴、学習などのより濃厚な支援を必要とする子どもが利用する居場所など、たくさんの支援場所を訪れた。

 第2章で紹介した2児を育てるシングルマザーは、仕事と育児の両立に悩み孤独感を抱いていたが、子ども食堂などを利用するようになり、支援者や親など人のつながりができ「救われた」と話した。

 「やっぱりやらないと」

 まちなか支局の移転も完了した4月、取材班は子ども食堂の開催へ向け再び動き出した。

 食堂の名称は「ほうぷけん」。連載のタイトルにある希望を意味する英単語「hope(ホープ)」を落とし込んだ。5月10日、初開催を迎えた。

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 子どもの希望取材班は連載を通じ、子どもの成長に応じてつながり続けられる仕組みづくりや、官民一体の継続した取り組みが必要などとする提言をまとめた。その上で、私たちに何ができるのか。子ども食堂運営の実践などを通じ、地域ぐるみで子どもの育ちを支える社会づくりの方策を探る。

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