かつての2強「横浜FM」と「川崎」はなぜ凋落したのか(2)三笘薫ら「2ケタ得点4人」2020年の川崎、ポステコグルーと「ブラジル人トリオ」の横浜FM、2強時代に幕「最強FW」

アンジェ・ポステコグルー監督が築いた基礎に、アンデルソン・ロペスらブラジル人FWトリオが加わって、横浜F・マリノスはスーパーチームに。写真は植中朝日(左)とアンデルソン・ロペス。原悦生(Sony α1使用)

今季のJリーグもシーズンを折り返した。さまざまな変化が見られる中、気になるのが横浜F・マリノスと川崎フロンターレの不調である。近年のJ1を席巻してきた2強は、なぜ急激に勢いを失ったのか。サッカージャーナリスト大住良之が考察する。

■鬼木監督が「1試合3点がノルマ」と語った川崎

だが、横浜F・マリノスと川崎フロンターレの「凋落」の最大の原因は、こうした要素以外にあるのではないかと、私は感じている。ひと言でいえば「イノベーションの欠如」である。

川崎では、2012年から2016年まで監督を務めた風間八宏が圧倒的なパスワークのチームをつくり上げ、2017年に就任した鬼木達監督がそれを継承して破壊的な得点力を持つチームに仕立て上げて初優勝。翌年も優勝を飾ると、2020年、2021年にも連覇。とくに三笘薫がJリーグで唯一フルシーズンプレーした2020年には、小林悠が14得点、レアンドロ・ダミアンと三笘が13得点、家長昭博が11得点と、4人もの「2ケタ得点者」を生み、チーム総得点88を記録した。

34試合で88得点。1試合平均2.59得点という高い比率である。この記録は、中山雅史が4試合連続ハットトリックを達成した伝説のチーム、1998年のジュビロ磐田(34試合で107得点、1試合平均3.15)に次ぐもの。鬼木監督就任から5シーズンで4回優勝、監督が「1試合3点がノルマ」とうそぶいたこの当時の川崎は、まさに「スーパーチーム」だった。

■全員が攻撃に関与「相手守備を破る」横浜FM

それに対抗したのが、アンジェ・ポステコグルー監督が率いた横浜FMだった。2018年、就任とともに改革を開始し、ハイライン、ハイプレスで縦に速いサッカーを指導。1年目は12位と低迷したが、2年目に攻撃陣にブラジルからマルコス・ジュニオールなどを加えて攻撃力を強化し、シーズン後半に圧倒的な力を見せて優勝を飾った。

ポステコグルー監督は2021年シーズンの半ばにスコットランドのセルティックの監督となったが、それを引き継いだ同じオーストラリア人のケヴィン・マスカット監督の下、チームを整備し、2022年にはアンデルソン・ロペスを中心に右にヤン・マテウス、左にエウベルと並ぶブラジル人FWトリオを押し立てて川崎から王座を奪い返してきた。ポステコグルーが基礎を築き、それまでになかったまったく新しいスタイルを確固たるものにした横浜FMも、「スーパーチーム」だった。

こうして、2017年から2022年にかけての6シーズン、川崎と横浜FMはJリーグのタイトルを独占し続けてきたのである。圧倒的なパスワークとテクニックでどんなに守備を固めても崩してしまう川崎、前へ前へとボールを進める中、全員が攻撃に関与して相手守備を破ってしまう横浜FM。スタイルは大きく違うものの、観客を魅了する攻撃サッカーの応酬は、30年を超すJリーグの歴史でも特別な6シーズンだった。

■2強時代にピリオドを打った「日本最高FW」

だが、圧倒的なチャンピオンがいれば、それを倒すための方策を考え、工夫し、乗り越えていくのがサッカーという競技である。高額で海外のスター選手を獲得するという形から、欧州で実績を積んできた日本代表クラスの選手を並べるという形で戦闘力のあるチームをつくったヴィッセル神戸が、昨年、ついにこの「2強時代」にピリオドを打つ。

吉田孝行監督は、風間-鬼木ラインやポステコグルーのような革新的な攻撃をつくったわけではなかった。チーム一丸の激しく固い守備と、日本代表を退いてから2年以上たっても「日本最高のセンターフォワード」と言われる大迫勇也を軸とした攻撃、いわばオーソドックスなサッカーで王座をつかんだのである。

そして今季は、J2から初昇格した町田ゼルビアが堂々と首位を走っている。黒田剛監督の指導の下、これまでのJリーグにない強度の高い攻守、ビッグスターはいないが、各ポジションに必要な技術と能力を持った選手を並べて90分間戦い抜く試合は、まさに現代サッカーのひとつの方向性を示したもの。リーグの前半戦に、川崎に1-0、横浜FMに3-1と勝ったことは、非常に象徴的な出来事と言える。川崎と横浜FMの「2強時代」は、完全に終結したのだ。

© 株式会社双葉社