夏目漱石に小泉八雲 村上春樹さんも訪れた老舗・長崎次郎書店が「休業」へ 電子書籍や決済手数料の増加が要因

いま全国で書店が減少している。熊本市でも中央区新町にある老舗の長崎次郎書店が、6月30日での「休業」を発表した。消えゆく町の書店、その背景を取材した。

大正13年建築の国の登録有形文化財

昔ながらの街並みが残る熊本市中央区新町。1874年(明治7)創業で、2024年に150年の歴史を刻む長崎次郎書店は、森鴎外や夏目漱石、小泉八雲ら名だたる文豪が訪れ、書物を手にしていたという。

1924年(大正13)に建てられた木造2階建てのレトロな外観が特徴で、1998年(平成10)に国の登録有形文化財にも指定された。2014年7月にリニューアルオープンし、2階の長崎次郎喫茶室とともに多くの人から愛されてきた。

2015年には作家の村上春樹さんも来店した熊本屈指の老舗だが、2024年6月30日で休業を発表した。

消えゆく町の書店 要因は本の電子化など

取材した日も店内には思い思いの1冊を求める客の姿があり、休業の一報に「ショックですよね。昔からある建物ですごく雰囲気がいいところなので、(来店を)楽しみにしてたんですけど。染色をやってるものですから、こういう染色関係の本を見るのが。新しいのが出てないかなとかいろいろ見るのが楽しみだった」と肩を落とした。

「休業」と聞いて初来店したという客は「6月30日で休業ということだったので、とにかく一回来てみたいという感じと。(店内に)入ったら場の空気が素晴らしくいいなというふうに感じました」と話した。

日本出版インフラセンターによると、全国の書店の数はここ20年間で9962軒減少。2003年と比較すると、約半分にまで減っている。消えゆく町の書店、その背景には書籍の電子化、そして決済の電子化による手数料増加などの要素が絡んでいるようだ。

長崎次郎書店を運営する長﨑健一社長によると、電子書籍・コミックの普及や、キャッシュレス決済で発生する手数料など、コストの増加で休業を決めたということだ。一方、2階にある長崎次郎喫茶室と上通の長崎書店は、今後も変わらず営業を続ける予定だ。

「閉店」ではなく「休業」の長崎次郎書店

長崎次郎書店を運営する長﨑健一社長は今回、「閉店」ではなく「休業」というワードを使っている。「店舗としては一区切りですが、概念や文化としての長崎次郎書店をこれからも受け継いでいきたい」という思いが込められている。

町の書店が減っている要因としては、本や雑誌の売り上げが大きく落ち込んでいることが考えられる。ネットで様々な情報が早く手軽に手に入るようになったうえ、書籍の電子化が進んだことも一因だ。

業界団体の『出版科学研究所』によると、売り上げが過去最大だった1996年は2兆6564億円だった。それが2023年は1兆5963億円まで減っている。出版物のカテゴリーごとに見てみると、「雑誌」の落ち込みが特に顕著だ。さらに、2020年に全体の売り上げが少し回復したように見えるが、コロナの巣ごもり需要で電子書籍が伸び、書店の売り上げを圧迫する結果になっている。

この問題については国も動き出していて、齋藤健経産相の肝いりで、3月5日に省内横断のプロジェクトチームを設置。中小企業に対する補助金の活用や、事業承継の推進など、『町の本屋を守る』具体的な取り組みを進める考えだ。国が実効性とスピード感のある施策を打ち出せるかどうか今後の動きにも注目したい。

(テレビ熊本)

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