唯一無二の作品求めて 南島原の刺しゅう作家・菱沼さん 旅から物作りのヒント 長崎

個展のワークショップで刺繡を教える菱沼さん=南島原市西有家町

 細かな手仕事、独特なデザインと多様な色彩に来場者が魅了されていた。6月5~9日、長崎県南島原市内で刺しゅう作品展「my hand(マイ・ハンド)」を開催した作家の菱沼野生さん(43)。「東京からも足を運んでもらった」と満足感を漂わせた。
 オリジナルの民族衣装や装身具など数々の作品の中で異彩を放っていたのが、南米パラグアイの伝統手芸「ニャンドウティ」。先住民のグアラニー族の言葉で「蜘蛛(くも)の巣」を表す。
 木枠に貼った布を土台に、針と細かい糸を使って器用に縫い上げる。網目はクモの巣のように繊細。赤や青、黄色、ピンクなど極彩色の縫い糸が使われており、情熱的な色彩が南米を想起させる。
 「残念ながらパラグアイに行ったことはない」と笑う。7年前に沖縄であったワークショップで独特の技法を習得。その後、自作のニャンドウティの画像を交流サイト(SNS)に投稿したところ、パラグアイ人から「自国でも減りつつあるニャンドウティを日本人が作ってくれているのがうれしい」とコメントをもらった。

菱沼さん自作のニャンドウティの耳飾り

 パラグアイこそ旅していないが、高校卒業後、兵庫・姫路や東京、沖縄で暮らした。20代を中心にバックパッカーとして世界33カ国を周遊。旅先で出合った民族衣装に感銘を受け、31歳から独学で刺しゅうを始めた。
 「旅から物作りのヒントを得ている」と話すように刺しゅうの探究や素材探しのため、タイのパローン族やベトナムの黒モン族、ラオスのレンテン族を訪問。民族衣装の作り方や刺しゅうの技法の指導を受けた。
 「唯一無二の刺しゅう」を求めて制作に励んでいる。夫と小学生の娘を送り出し、土いじりと昼食を終えた正午から午後3時までが自分と向き合う貴重な時間。有明海を望む風通しの良い古民家の室内に、シンガー・ソングライター矢野顕子さんやロックバンド「はっぴいえんど」など、お気に入りの昭和の音楽を流して気分を高めている。
 島原市生まれ。南島原市に行く機会は少なかったが、緑豊かな南島原の景色に感動し、2022年2月に移住した。地域イベントに参加することで顔見知りも増えてきた。
 「芸術大を卒業したわけでもなく、ほとんど独学だが、個展を目標に創作活動をしてきた。展示させてもらえる機会や場所をどんどん開拓したい」と意欲を語る。

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