昭和の映画ポスターやレコードを壁一面に飾り、鮮やかで奇抜な衣装の山で店内の半分が埋め尽くされている。コスプレとカラオケを楽しめるスナック「裏町人生」(長崎市本石灰町)。いつもなら忘年会や同窓会の団体客で満杯になる時期だが、今年は歌も笑い声も聞こえない。
「汚れてないけど」。テーブルを拭く黒川幸子さん(59)はここで32年働いている。県の補助金で購入したアクリル板で舞台と席側を仕切り、除菌グッズも完備。県外客は断っている。なのに、ここ2週間、客が1人も来ない。「こんな寂しい冬は初めて」
店主(44)は昨年6月、先代の父を亡くした。常連客らの求めで経営を引き継いだ。賃貸の再契約をした2月は「まさかこうなるとは」思ってもいなかった。
緊急事態宣言が全国に拡大された翌日の4月17日、中村法道知事は不要不急の外出や県境を越える帰省、旅行を自粛するよう県民に求めた。同25日からは事業者にも休業や営業時間短縮への協力を要請。大型商業施設が応じ、歓楽街が一斉にシャッターを下ろした。裏町人生も40日間閉めた。
長崎帆船まつりなどイベントは軒並み中止に。宿泊や飲食、土産、交通といった観光関連業界が悲鳴を上げ、県は1泊5千円を助成し県内宿泊を促した。事業者は持続化給付金(個人は最大100万円)や雇用調整助成金で食いつなぎ、金融機関が積極融資と返済猶予で資金繰りを支えた。
その一方、テレワーク(在宅勤務)が広まり、「巣ごもり消費」が伸びた。一時はマスクや消毒液を求める客が殺到し、デマでトイレットペーパーの買い占めまで起きた。
夏場の“第2波”を越すと「Go To トラベル」効果で人出や消費は持ち直した。裏町人生の客足も秋に前年比3~4割まで戻った。だが、ここに来ての“第3波”。周辺では飲食店の廃業やクラスター(感染者集団)が出ている。店主は独りごちる。「みんな羽を伸ばしたいだろう。けれど今はじっと辛抱するしかない」。街はぐんと冷え込んでいる。
長崎この1年2020<3> 休業・時短要請 観光、飲食 再び冷え込む
- Published
- 2020/12/24 10:34 (JST)
- Updated
- 2020/12/25 15:11 (JST)
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