対馬にも宇宙ゆかりの地? 星が落ちたと伝承『星池』

昔、星が落ちたと伝承されている星池。火星の荒野のような景観が広がっている=対馬市厳原町阿連

 日本の探査機はやぶさ2が昨年末、小惑星りゅうぐうの石や砂を地球に持ち帰る「サンプルリターン」に成功し、宇宙への関心が全国的に高まっている。こうした中、長崎県対馬市にも知る人ぞ知る宇宙ゆかりの場所があると聞いた。その地は、かつて星(隕石(いんせき))が落ちたという伝承がある同市厳原町阿連(あれ)地区の「星池」。異世界に迷い込んだかのような景観が広がる現地を、地元住民の案内で訪ねてみた。

 阿連地区は、対馬西岸の半農半漁の小集落。江戸時代後期の1809年に対馬藩士がまとめた地誌「津島紀事」は星池について、阿連村の古老が「昔、星が落ちて池となった。池は埋めて水田にしたが(その地は)くぼんでいるため今なお(当時の)円形が残っている」などと語ったと記している。
 隕石などが落ちたという直接の記録はないが、江戸時代には既に昔話として伝わっていた。阿連地区の農業、長瀬円(まどか)さん(70)は「60年ほど前まで、星池は水田だった」と証言する。長瀬さんの母方の家がかつて星池で米作りをしており、少年時代の長瀬さんが田植えを手伝った際、祖母から「昔ここに星がおてきた(落ちてきた)」と聞いたという。

星池

 星池があるのは集落からひと山越えた、地元で修理田浜と呼ばれる海岸。現在では漁業者が漂着ごみを掃除する時以外に、人が訪れることはほとんどないという。かつては馬や牛で通ったという未舗装の山道を軽トラックで約10分走り、海岸に到着して歩くこと約5分。目の前に星池が姿を現した。
 折からの少雨で、直径20メートルほどの池は底まで干上がっており、まるで月面クレーターのよう。池の周縁部は石積みで、人の手が加えられていることが分かる。一方、近くの丘陵は衝撃を受けたかのようにえぐれて見え、全体的な姿は、米国の探査機キュリオシティーが撮影した火星の荒野をほうふつとさせる。

星池は朝鮮海峡に面した対馬西岸にある

 案内してくれた長瀬さんは「はやぶさ2のニュースで、あらためて日本の技術力はすごいと感じた。星池でもサンプルをとれば、宇宙に行かなくても何か分かるかも」と話した。
 対馬各地の伝承に詳しい対馬観光物産協会の西護事務局長(48)は星池について「科学的な分析はされていないが、地域の言い伝えには何らかのきっかけとなる出来事があったはず。対馬には星が落ちて変化した石をご神体として祭ったという地域もあり、伝承から人が昔から宇宙や天体を畏れ敬ってきたことがうかがえる」と指摘している。

 


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