医療分野で供給網構築へ 長崎県内企業 動き加速 技術生かし製造基盤強化

「挑戦の1年になる」と話す長崎軽金属の堤社長=大村市今村町

 安定的な成長が見込まれる産業として、医療分野のサプライチェーン(部品の調達・供給網)の構築を目指す動きが長崎県内で進んでいる。医薬品を製造する装置には、造船業などで培った県内企業のものづくりの技術を生かせることに加え、核となる企業が県内に進出し態勢が整ってきている。新型コロナウイルス禍で、国は国内での生産拠点の整備を促しており、県も後押しに乗り出す構え。今後、新規参入を目指す企業も増えそうだ。
 「医薬品製造装置の売り上げを5年後には10倍にしたい」。2021年、本格的に受注体制を整える長崎軽金属(大村市)の堤幸三社長は期待する。
 ステンレスの板金加工を得意とし、これまで食品機械や産業用機械の部品を製造。17年に医療分野への参入を目指して以来、医薬品製造装置を手掛ける企業に指導を仰ぎ、技術力の習得に励んできた。21年は工場を2棟新設し、製造基盤を強化。設備投資は2億円を超え、1988年の創業以来最大規模になるという。
 医療は安定した成長が期待される分野だ。民間の調査によると、24年の医薬品の国内生産高は約10兆円が見込まれ、人口減少の中でも安定的に推移。医薬品の製造装置も需要が続くとみられている。
 産業界では、生産拠点の国内回帰の流れが強まっている。昨年は新型コロナの感染が拡大する中で、海外に生産拠点を置いた日本企業は大打撃を受けた。マスクや消毒アルコールなどの供給も滞り、日本のサプライチェーンの脆弱(ぜいじゃく)さを露呈した。
 こうした事態への反省から、国は国内で生産拠点を整備する事業所に補助金を出す新制度を創設。その流れを受けて県企業振興課は、医療を含めた成長分野を支援するため、21年度の予算編成で2億2700万円を要求。企業の工場新設や研究開発に対する補助金を設ける考えだ。
 医薬品製造装置の県内サプライチェーン構築の中心にいるのが、医薬品製造装置を受注生産するオーカワラテック(諫早市)。産業機械製造の大川原製作所(静岡県)の子会社で、20年に創業。長崎軽金属など医療分野に参入する複数企業に技術指導している。
 医薬品製造装置は、金属加工で求められる技術レベルが高い。溶接でできた凹凸に少量でも薬品が残った状態で、別の薬を作ると異物混入になるからだ。オーカワラテックは長崎軽金属に20を超えるパーツの試作を依頼し、つなぎ目が分からないように仕上げる研磨技術を指導。現在は粉体の粒を作ったりする装置の主要パーツを発注している。
 オーカワラテックは5年後の売上高を10億円と、現在の4、5倍を見込んでいる。小柳敦社長は「今後、県内企業への発注比率を高め、サプライチェーンを構築していきたい」と県内企業とのさらなる連携を思い描く。

長崎軽金属が主要パーツを製造する医薬品乾燥装置(オーカワラテック提供)

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