中村均氏が断言! GⅡ昇格の東スポ杯2歳SはGⅠホープフルSより価値がある! 一流馬集結の理由とは 

東スポ杯を制した名馬コントレイル

いよいよGⅡ東スポ杯が誕生――。27日、日本グレード格付管理委員会の承認を受けて、東京スポーツ杯2歳S(東京芝1800メートル)のGⅢ→GⅡ昇格が、正式にJRAから発表された。今年の11月20日からワンランク上の格式を持つ競走として、ダービーを目指す競馬関係者に門戸を広げることになった。GⅠホープフルSの前哨戦としての充実した競走内容を買われての格上げだが、本紙競馬評論家・中村均元調教師会会長は「ダービーを狙う陣営にとってはホープフルS以上の値打ちがある」と断言。これまでワグネリアン、コントレイルといったダービー馬を筆頭に、多くのGⅠ馬を輩出してきた名門競走が、今後はさらに輝きを増す“スーパーGⅡ”になると予言した。

東スポ杯2歳SがGⅡに昇格するというニュースは専属評論家を務める私にとってもとてもうれしいことです。一昨年の勝ち馬コントレイル、2017年のワグネリアン、13年イスラボニータ、11年ディープブリランテ…。名前を挙げればキリがないほど、GⅠ勝ちのビッグネームがこの東スポ杯から羽ばたいています。これは決して偶然の産物じゃない。調教師をはじめ、サラブレッドに関わる競馬関係者は誰もがダービーに向けてどのローテーションが一番意味があるのかを常に研究し、最適解を求めてレースを選択しています。東スポ杯にこれだけの素質馬が勢揃いしているのは、関係者が最も有用性を見いだしていることの裏づけです。

ではなぜ、ここまで一流馬が集結するのか? 大きな理由は2つあります。ひとつは言うまでもなく、ダービーと同じ東京コースで行われるからです。17年からGⅠになったホープフルSも同じ中距離で行われる2歳の重要レースですが、こちらは当然ながらより結びつくのはダービーよりも同舞台の皐月賞。同じ3冠とはいえ、ホースマンにとって皐月賞とダービーの価値が大きく違うのは競馬を知っている人ならお分かりでしょう。だからこそ、東京を経験させようと陣営がこぞってキュウ舎のエースを東スポ杯に送り込んでくるのです。

もうひとつの理由は絶妙な開催時期にあります。「ダービーからダービーへ」をJRAが標榜し、2歳新馬戦のスタートが早まって以降、それに呼応して競走馬サイクルの早期化がどんどん進みました。理想は夏前デビューですぐ勝ち上がらせて、ひと息入れて秋に賞金加算の一戦…。それに11月施行の東スポ杯がぴったり合致するのです。これが1月とか2月ではもう遅い。なぜなら厳寒期に入っているから。野球のオフシーズンに行われるキャンプを温暖な気候の土地でやるのと同様、サラブレッドにとっても寒くて筋肉が硬くなりやすい冬場にハードなトレーニングをすることは、故障のリスクを高めます。調教コース自体も凍結するなどして硬くなりますし、雪の影響が出ることも。これは競馬場のコースにも当てはまることです。実際に1月、2月は骨折や筋を痛める故障が他のシーズンより多い。それに比べると今の日本で11月はまだ暖かい。加えて、コースはダービーと同じ東京。これでトップクラスが集まらないわけがありません。

余談ですが、私も16年にトラストという馬を東スポ杯に出走させました。地方の川崎競馬出身で、マイネル軍団の総帥として著名なオーナーの岡田(繁幸)さんが、札幌2歳Sを勝った後、中央の私のキュウ舎に転キュウさせたのです。当初、英国のダービーを目指したほどトラストに期待をかけていた岡田さんが、日本ダービーを取るという思いで、札幌2歳Sの後に選んだレースが東スポ杯でした。思い出すのはレース当日のパドックで、やけにボテボテの馬が一頭いたことです。「この馬だけには負けないだろう」と私は高をくくっていたのですが、その馬が直線猛然と伸びてきて2着。トラスト(5着)にあっさり先着したのです。「なんだこの馬は? この体でここまで走るとは」と驚いたその馬はスワーヴリチャードでした。その後のダービー2着、大阪杯、ジャパンカップ優勝などの活躍を見ても、あの年もすごいメンバーが揃っていました。

東京コースで施行されること、12月のホープフルSよりもまだ暖かい11月に行われることなどを総合的に判断すると、格のうえではGⅠのホープフルSのほうが上でも、東スポ杯の実体はそれと同格、いや、ダービーに向けてという視点で見ればホープフルS以上の値打ちのあるレースと断言できます。GⅡという装いも新たになった今年以降は、さらにメンバーが充実して東スポ杯=“ダービーを勝つためには、まずこのレース”。そんな位置づけがよりクリアになるのではないでしょうか。

東スポ杯の歴史…1966年に創設されたオープン・東京3歳S(東京芝1400メートル)が前身。68年に府中3歳Sに改称されると、84年に現在と同じ1800メートルに施行距離が変更された。96年にGⅢへ昇格し、97年から東京スポーツ杯3歳Sに改称。2001年から馬齢の国際基準変更に伴い、現在の東京スポーツ杯2歳Sとなった。

GⅢに昇格した当初の勝ち馬には97年キングヘイロー(高松宮記念)や98年アドマイヤコジーン(朝日杯3歳S、安田記念)といった後のGⅠ馬が名を連ねており、早々に出世レースとして定着。近10年の勝ち馬を見ても、昨年に無敗で牡馬3冠を達成したコントレイルを筆頭にディープブリランテ、ワグネリアンの3頭が日本ダービーを制覇。昨年の勝ち馬ダノンザキッドも次走のホープフルSを勝利し、すでにGⅠホースになっている。

今回のGⅡ昇格はホープフルSの前哨戦という意味合いが強いが、過去の勝ち馬が示すように当レースの価値は揺るぎないものになっており、今後も大舞台への登竜門として期待される。

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