原爆文化財の公的保管を

 「原爆の悲惨さ、怖さを子どもたちに伝えるためには、分かりやすい絵を描かなければ」。こんな思いから、抽象画主体の被爆画家尾崎正義さん(88)=諫早市=は、具象画で長さ約10メートルの大作「長崎無惨」をこのほど完成させた▲被爆から75年を経て先人たちは原爆をどう表現してきたのか、これからも私たちは原爆を表現し続けることができるのかというテーマで、本紙文化面に連載した「長崎原爆と創作」(計35回)が今月終了。エピローグは初回で登場した尾崎さんの今を追った▲原爆の残酷さを社会や後世に伝えようと悩み、考えあぐね、また絵筆を握る。老いてなお悲惨な記憶に向き合う執念と作品の重みに圧倒される▲連載では尾崎さんの多数の原爆画に加え、かつてたくさん作られた原爆音楽の楽譜や資料などを保管・活用する公のシステムがなく、結果として個人が保有し続け、途方に暮れている状況が紹介された▲個人所有のままその人が亡くなると、廃棄されてしまう可能性もある。かといって家族らが半永久的に保管し続けることなどできない▲原爆を題材にした絵画、文学作品、音楽などは人類の財産だと思う。被爆県だからこそ、原爆の実相を表現した“文化財”の所在を調べて受け入れたり、保存・公開したりする公的な取り組みが望まれる。(貴)

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