足止め、足踏み

 きっと静岡県の大井川だろう。江戸川柳に〈川留めに腹の立つほど富士が晴れ〉とある。雨で増水したら川留め、つまり船で川を渡るのが禁止になって、江戸の頃の旅人はよく足止めを食ったという▲空はもう澄んで、富士山がくっきり見えるのに…と、一句から小言が聞こえてくる。現代もまた、行楽、旅行、帰省の季節に川留めならぬ“県境止め”に遭って、「腹の立つほど」晴れた空を仰いだ人も多いに違いない▲県境をまたがないで、と求められた大型連休を皆さんはどうお過ごしだろう。とりわけ長崎市では、飲食店などの営業時間短縮のほか、市外との往来も控えるよう要請されている▲長崎市では多くの公共施設、観光施設も休館になっている。しばらくは県境、市境を越えずに過ごすよう求められたのは4月28日からで、その効果の程が数字に表れるのは今からあと何日か後になる。感染者の数は、さて…▲と目を凝らしていたが、大型連休のさなかにもその数は急増し、長崎市で「まん延防止」の措置を政府に求めるかどうか近く判断するという。この大型連休で感染をぐっと抑え込むというシナリオ通りにはどうもいかない▲行楽や旅行どころか、いつもの生活にも足止め、足踏みが強まりそうな5月、立夏になっても明るい日差しにはまだ遠い。(徹)

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