「医療従事者に元気を」 コロナ診療の最前線を知る医師、聖火つなぐ

「世の中と医療従事者に元気を」と願いを込めて聖火をつないだ原信太郎さん=壱岐市

 7日に壱岐市内を走った呼吸器内科医の原信太郎さん(42)=愛野記念病院勤務、長崎県諫早市西小路町=は、新型コロナウイルス診療の最前線を知る。自ら感染者を診察すると同時に、目の当たりにしてきた過酷な環境で働く同僚の姿-。県内にも第4波が押し寄せる中での出走に「世の中と医療従事者に元気を与えたい」と願いを込めて希望の灯をつないだ。
 聖火ランナーに応募した2019年は「ビフォーコロナ」のころ。志望動機も「医師の頑張りをアピールしたい」というものだった。ほどなく世の中は一変。図らずも呼吸器内科がクローズアップされるようになり「走る意義が一つ増えた」。並行して五輪に対する世論の風当たりも強くなったが、辞退する気にはどうしてもなれなかった。
 勤務する愛野記念病院は、コロナ診療の協力病院。病床確保のフェーズが引き上げられた際に患者を受け入れている。さらに原さんは、他院の助っ人に入るコロナ支援チーム(通称COVMAT)の一員としても活動。逼迫(ひっぱく)した医療現場を知れば知るほど「ウィズコロナの新しい時代に、前を向いていかなければいけない」と考えるようになった。聖火ランナーを務め上げることで、まずは自らが未来に希望を見いだせる気がした。
 原さんは呼吸器内科医のほかにも、緩和ケア医、臨床宗教師という二つの肩書を持つ。日々の業務で終末期の患者に接し、東日本大震災の1カ月後には福島県南相馬市で被災者や遺族の心のケアに当たった。こうした現場は、医学だけで解決できないことも多い。「失うものが多い中で、いかにできることに目を向けてもらうか」という視点が大事になるという。閉塞(へいそく)感漂う今の日本と、共通する部分があると感じている。
 「五輪なんてとんでもないという気持ちになるのも分かる。医療従事者の大変さも感染症の怖さも、もちろん分かる。その上で、できることを見つけたい。世の中が少しでも前向きな方向に変わってほしい」。希望の炎から伝わる熱いエネルギーを感じながら、与えられた200メートルを笑顔で完走した。


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