「動物福祉」向上に奮闘 飼育環境に配慮し魅力伝える 佐世保・森きらら 育み 集い 憩う 森きらら開園60年・下

園内の動物と触れ合う岩岡園長

 新設や改修、運営主体の移行などを経た九十九島動植物園(森きらら)。2015年からは動物のよりよい環境をつくる「動物福祉」の観点を本格的に取り入れ、飼育の「質」を高めようと職員らは奮闘している。
 大きな池に囲まれた、コモンリスザルの展示場。小屋の隣には彼らが虫を見つけたり、遊んだりできる草が生い茂ったスペースが広がる。今では当たり前の光景だが、3年前まではコンクリートの壁や地面に囲まれる無機質な場所だった。それを飼育員らが1年かけて改良し、今の形にした。

改修前のコンクリートに囲まれた、コモンリスザルの展示場(写真上)、改修後の、草が生い茂るコモンリスザルの展示場(森きらら提供)

 これは、「環境エンリッチメント」と呼ばれる取り組みの一環。本来過ごすような環境をつくることで動物が元々持つ野生行動を引き出し、飼育動物の“幸福な暮らし”を実現する。岩岡千香子園長(44)は「小規模な施設なので、動物には広さとは違う形の幸せを提供したい」と積極的に取り入れる理由を話す。野生に近い動きをできるようになるのは、動物だけでなく、来館者にとっても魅力的だ。
 全国的に普及している取り組みだが、内容は各園の動物福祉の考え方や、飼育員の“やる気”によりまちまちだという。同園では、全飼育員が参加する「エンリッチメントミーティング」を月に1度開き、毎回1人が新たな取り組みを発表。アライグマやレッサーパンダの展示場や寝室の改善にもつなげてきた。
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 動物に自発的に動いてもらい体重測定や採血などの健康チェックをする「ハズバンダリートレーニング」も導入している。動物の健康状態を把握するのは最も重要な仕事の一つだが、強制的に測定などをすると動物にストレスを与えるだけでなく、場合によってはけがをさせる心配もある。同園では現在、同トレーニングをペンギンやライオン、キリンなどほとんどの動物で実施している。
 だが、体重計に乗ったり、脚を差し出したり、健康チェックに必要な動作を習得させるには半年から1年はかかる。飼育員にとっては「骨が折れる」作業だが、健康チェックを安全に行える利点には代えられない。
 同トレーニングをけん引する同園飼育員、比嘉紋子さん(48)は「動物に嫌な思いをさせないように、とにかく楽しんでやってもらえることを心掛けている」と説明する。

ハズバンダリートレーニングにより、ライオンのしっぽから採血をしている様子(森きらら提供)

 開園から60年。展示場の老朽化などは避けられないが、展示法や飼育のやり方などを工夫し、園の質を高めてきた。岩岡園長は「今後も飼育動物が幸せに暮らせるよう尽力しながら、来園者の方に動植物の魅力を伝えていく園にしたい」と言う。小さな動植物園の模索はこれからも続く。


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