【東京五輪】コロナ感染選手が巨額賠償請求…スポーツビジネスの専門家が指摘する「最悪シナリオ」

感染した選手からの賠償額は開催中止を上回る可能性もあるという

例え、やれたとしても…。東京五輪開幕へ40日を切り、大会組織委員会や国際オリンピック委員会(IOC)は、新型コロナウイルス禍での開催へと突き進んでいる。各国の代表選手は次々にワクチンを接種し、日本選手団も今月から開始。今週にも海外選手の行動ルールなどをまとめた「プレーブック」最終版も発表される。さらなる感染拡大を懸念する世論を無視した〝強権発動〟と言っていいが、スポーツビジネスの専門家からは強行開催で起こり得る「最悪のシナリオ」が指摘された。

強行開催への動きは今月に入ってから加速し始めた。全員のワクチン接種を終えたソフトボールのオーストラリア代表が来日。日本選手団のワクチン接種も始まった。組織委の橋本聖子会長(56)は今後、審判や選手との接触が多い関係者など約1万8000人を対象に、18日から都庁で接種を開始することも明らかにした。

さらに「プレーブック」最終版が今週にも発表される予定。橋本会長が「安心していただくためには厳しい行動制限もしていかないといけない」と語るように、大会期間中、規則を破った関係者にペナルティーが科される可能性もある。少なくとも組織委、IOCは感染対策に自信を持っているようだが、国内外から多くの選手、競技関係者が集まるだけに、感染リスクはあらゆる場面に潜む。

そんな中、五輪やスポーツビジネスに詳しい大阪産業大の永田靖教授(54)は、選手が感染した場合に「損害賠償を請求される可能性があります」と重大指摘した。

今回の五輪では、IOCが参加者に求める同意書に「コロナ」や「暑さ」によるリスクは自己責任であることを明記。リスクの範囲は身体への影響や死亡の可能性にも及ぶ異例の内容となっている。しかし、永田氏は「国によってはメダルを獲得すれば、国家公務員待遇になる国もあります。このように人生が変わったかもしれない選手が、コロナに感染して競技に出場できないとなれば訴えられてもおかしくないでしょう」との見解を示す。

となれば、訴える対象は開催権限を持つIOCかホスト国の日本で、どちらかが責任を問われそうだが、同氏は「私は日本だと思います」とキッパリ。続けて「非常に厳しい大会運営になっている中、IOC側に責任を求める形になると思いますが、IOCは日本のワクチン接種率の低さなどを突いてくるはず。政府、組織委、東京都からリーダーシップを感じることができませんし、IOCが日本を盾にする構図になる気がしてなりません」と危惧している。

さらに感染した選手の重症化や死亡、または1人ではなく複数人という最悪のケースでは「一部で中止になったときの賠償金が5000億円や1兆円と試算されているようですが、こちらは計り知れない損失、つまり1兆円では済まないことも考えられます」と持論を展開した。

IOCや組織委ら主催者側が望む開催実現にも〝地獄〟へ突き落とされるリスクは少なくない。そうならないためにも賢明な判断が求められそうだ。

© 株式会社東京スポーツ新聞社