伴走型支援 市民も担い手 第8部 識者に聞く (3) 三重県名張市長 亀井利克さん

 三重県名張市は、市の福祉施策の指針を定めた地域福祉計画の最新版で「『社会的処方』による支援機能の充実」を盛り込んだ。市民と地域や行政とをつなげる「リンクワーカー」の養成にも取り組む。市長の亀井利克(かめいとしかつ)さん(69)は、住民参加型のまちづくりを実践しながら、市民と専門職のつながりを重視した切れ目のない支援態勢の充実に取り組んできた。

 「地域包括ケアシステムの発展を目指している。治療を終えて退院したが、再び医療機関へ入院してしまう人がいる。こうした人が病院へ戻らなくてもいいように、地域社会や関係機関・団体へとつなぐ人材を育てたい」

 「相談がないから市民は大丈夫と考えるのは間違いで、困り事を抱えている人は多い。そういう人を探し、寄り添い伴走型の支援をするというところに、リンクワーカーの活躍の場がある」

 リンクワーカーには、保健師や医師、看護師、市職員など専門職に加え、地域住民からも養成を目指す。

 「専門職は、プロとしての認識や役割を自覚して取り組んでいただく。伴走型の支援には、地域の方の力も必要。市民の感受性を高めてもらい、困り事を抱えた人の変化に気付いてもらえるようにしたい」

■意識の高まり

 2003年度、市民で構成する15の「地域づくり組織」をつくり、それまでの地域向け補助金を廃止した上で人口や面積に応じて予算を分配。使い道は各組織に委ねるという取り組みを進めてきた。

 「最初は従来の補助金でやっていた事業しかできなかった。次第に自分たちの地域の課題を考え、その解決のために使われるようになった。住民自治の熟度が高まっている。高齢化という課題もあるが、若者とうまく協働する地区もできてきた」

 看護や介護の専門職が常駐する「まちの保健室」を、市内計15カ所、小学校区に1カ所の割合で設置した。

 「地域包括支援センターのブランチ(出先機関)として置いている。生活圏を考えると、中学校区では顔の見える関係はできない。住民と行政の信頼関係を結ぶ拠点になっている」

■はざまを防ぐ

 さまざまな地域資源をつなぐ存在として、リンクワーカーの養成に期待を込める。

 「地域包括ケアシステムでは、医療と介護、施設と在宅などの間に穴があってはならない。関連性をつくることが必要。地域づくり組織や自覚のある民生・児童委員、まちの保健室、地域担当の保健師、総合診療医など、地域には重層的なケアシステムがある。そこをつなぐことで、はざまに落ちる人を防ぎたい」

 【プロフィル】三重県議などを経て、2002年、名張市長に初当選。現在5期目。全国市長会まち・ひと・しごと創生対策特別委員会の委員長なども務める。

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