2020年「老人福祉・介護事業者」新設法人調査

 2020年(1-12月)に全国で新しく設立された「老人福祉・介護事業者」(以下、介護事業者)の法人数は、2,746社(前年比10.3%増)だった。コロナ禍で新設数は6月まで前年を下回ったが、7月以降は一転して増加し、6カ月連続で前年同月を上回った。新設した経営者は、「コロナ禍で倒産した事業者に代わり、介護サービスを維持するため開業した」と話し、地域貢献も押し上げた格好だ。
 過去10年で新設法人数のピークは2013年の3,773社だったが、2015年度の介護報酬のマイナス改定や人手不足が影響し、新規参入に二の足を踏む状況が続いていた。こうした事情を反映し、2014年から5年連続で減少が続いたが、介護市場の拡大に支えられ2018年を底に2年連続で増勢に転じた。
 2018年度の介護報酬のプラス改定に加え、自立支援や家族介護と親和性の高いデイサービスなど「通所・短期入所介護事業」の新設法人数が伸びた。また、コロナ禍で介護事業の重要性が再認識されたことも増加の背景にあるようだ。
 2020年の「老人福祉・介護事業者」の倒産は118件(前年比6.3%増)、休廃業・解散は455件(同15.1%増)で、そろって過去最多を記録するなど、市場撤退を迫られる介護事業者は多い。一方で、高齢化社会の到来に伴い、市場拡大をビジネスチャンスとして捉え、準備不足のまま安易に参入した新設法人の淘汰も少なくない。
 2021年度の介護報酬プラス改定も追い風となり、今後も介護事業者の新設が見込まれる。少子高齢化で介護事業者の重要性は増しているが、介護離職の防止やより質の高い介護サービスが求められており、適度な競争と事業者の成長を支える支援が欠かせない。

  • ※本調査は、東京商工リサーチの企業データベース(対象400万社)から、2020年(1-12月)に全国で新しく設立された「老人福祉・介護事業」2,746社を分析した。調査対象期間は2011年から2020年。
介護事業者の各種年次推移

デイサービスなど通所・短期入所介護事業が急増

 2020年(1-12月)の介護事業者の新設法人では、最多は「訪問介護事業」の2,216社で、前年比192社増(前年比9.5%増)だった。次いで、デイサービスなど「通所・短期入所介護事業」の374社で、同102社増(同37.5%増)と大幅に増えた。有料老人ホームは73社(同14.1%減)と減少した。認知症グループホームなどの「その他」は83社(同23.1%減)だった。

業種別 介護事業者新設法人

都道府県別では大阪府が最多、増加率トップは山形県

 介護事業者の地区別では、関東が842社(構成比30.6%)と3割を占め、前年から13.3%増えた。次いで、近畿の762社(同27.7%)で、前年から9.9%増だった。関東と近畿で約6割を占めた。
 都道府県別は、最多が大阪府の446社(構成比16.2%、前年比3.9%増)だった。次いで、東京都の259社(同9.4%、同16.6%増)、愛知県の176社(同6.4%、同44.2%増)、兵庫県の151社(同5.5%、同14.3%増)と、人口の多い都市部に集中し、いずれも前年から社数が増加した。一方、最も新設法人数が少なかったのは島根県の7社(同0.2%、同30.0%減)だった。
 増加率トップは、山形県(6→14社)の133.3%増だった。2位は香川県(10→23社)の130.0%増、3位は佐賀県(12→25社)の108.3%増の順。一方、減少率トップは、新潟県(28→15社)の46.4%減で、前年急増の反動が出た。次いで、福島県(32→21社)の34.3%減、島根県(10→7社)の30.0%減。

 2020年の全業種の新設法人数はコロナ禍で2年ぶりに減少するなか、介護事業者の新設法人数は、低水準ながら2年連続で増勢を持続した。高齢化社会を迎え、介護市場は拡大が見込まれている。2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響が懸念されたが、月ごとの設立数は3月(前年同月比11.0%減)、5月(同25.0%減)、6月(同2.0%減)を除いて増加し、介護市場の根強さと地域支援の底力を見せた。
 2020年の新設法人では、デイサービスやショートステイなどの「通所・短期入所介護事業」が前年比102社増(37.5%増)と伸びが目立った。ただ、競合から2020年の「通所・短期入所介護事業」の倒産は38件(前年比18.7%増)に増えている。
 また、新設法人数が最多の「訪問介護事業」はヘルパー不足や高齢化が進み、人材獲得競争が激しい。新型コロナウイルス感染防止対策で、ヘルパーは心理的にも肉体的にも負担が大きく、ノウハウの蓄積が乏しい新設の「訪問介護事業」ほど、人手不足など厳しい経営環境が続く。
 これから高齢化社会は本番を迎える。生き残りには介護にふさわしい発想や経営理念が求められる。限られた予算や人員などの制約の中で、介護が必要な高齢者への対応はコスト優先だけで成り立つのは難しい。介護サービスの効率化と生産性の向上だけでなく、本来求められている介護ノウハウの共有など、新設法人の成長を促す支援に加え、業界全体の待遇や経営基盤の底上げが急務になっている。

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