コロナ禍で不要不急の外出を控えてと言われる中、旅番組や街ブラ番組が連日放送されている。見たら出掛けたくなってしまうのでは? 川崎市麻生区の看護師の女性(58)から「追う! マイ・カナガワ」取材班に疑問が寄せられた。テレビ局はどんな思いで旅番組を放送しているのだろう。
◆せめて旅気分を…試行錯誤
「旅行番組や街ブラ番組を見たらどうしても行きたくなってしまいます。これでは、いつまでも人の流れが抑えられないのでは…」
東京や神奈川をはじめ全国で緊急事態宣言や、まん延防止等重点措置が続いてきた中、医療現場でコロナ禍と向き合っている投稿者の女性。「昨年のGo to キャンペーンも落ち着いたら旅行したいなと思ってたのに、落ち着かないまま利用しそびれました。終わりのない日に疲れ切っています」と打ち明ける。
コロナ禍の難しい状況下、テレビ局はどのように番組を制作・放送しているのだろうか-。テレビ各局を取材したところ、テレビ東京と匿名希望の1社が答えてくれた。
両社とも感染予防は十分に対策しているとした上で、テレビ東京は「皆さんがなかなか旅行できない今、せめて番組で旅行気分を味わっていただければと考えて番組制作に当たっています」と回答。テレ東はお笑いコンビ「さまぁ~ず」が街の知られざる名所を訪ねる「モヤモヤさまぁ~ず2」などが人気だが、「収録が難しい場合は、過去の放送回を再編集した総集編などを放送しています」と試行錯誤が続いているようだ。
旅番組について「家にいる視聴者に楽しんでもらえれば」という別の局も、収録は「最少人数で行動しています」とコロナ禍の番組の在り方を模索している。
◆視聴者の声に耳を傾けて
ただ、番組を見て投稿者の女性のように感じる人もいる。そのほかの局からは回答が得られなかったため、元毎日放送(MBS)プロデューサーで同志社女子大メディア創造学科の影山貴彦教授(58)に、テレビ局の考え方を聞いてみた。
影山教授は「旅行に行けない視聴者にせめてテレビで楽しんでという思いは、元制作側としても理解できる」と共感する。一方で「旅番組を見て『ああ、私たちも行っていいんだな』という感情になるのも事実。『今はテレビだけで我慢しようね』というのは正直難しい」とも指摘する。
さらに、テレビは活字と比べ人々の感情に鮮明に響く特徴があるとし、「意図とは逆の効果を生み出してしまうことがあるので、テレビ局は慎重にならないといけないですね」と話す。
渋谷や銀座の風景を映して「これだけ人が出ています。大変ですね」と報じても、「こんなに出ているなら自分も出ていいんだという気持ちになる」ことを例に挙げ、「作り手側は投稿した女性のような視聴者の声に、引き続きしっかりと耳を傾けてほしい」と訴えた。
◆取材班から
旅番組や街ブラ番組が好きな記者は「モヤモヤさまぁ~ず2」がお気に入り。コロナ禍でも工夫を凝らした番組をいつも楽しみにしている。一方、女性の気持ちもよく分かる。みんなが心置きなくエンターテインメントを楽しめる日常が戻ると信じ、今は旅番組を見ても出掛けるのは我慢したい。