長崎県内 大規模盛り土790カ所 「計画的に調査、対策を」長崎大・蒋教授

盛り土の安全について「優先順位を決めて計画的に調査、対策を進めるべき」と語る蒋教授=長崎市文教町、長崎大

 静岡県熱海市で発生した大規模土石流では、山間上部の谷を埋め立てた大量の盛り土が崩落したと指摘されている。国土交通省によると長崎県内では、大量の盛り土で造成した宅地の「大規模盛土造成地」が五島市と北松小値賀町以外の19市町に790カ所ある。地盤防災工学が専門の長崎大大学院工学研究科の蒋宇静(ジャンイジン)教授(58)は安全性を前提に造成されているとした上で「時間が経過する中、地下水の浸透などで強度の変化は十分あり得る。優先順位を決めて計画的に調査、対策を進めるべき」と指摘する。
 蒋教授は、熱海市の大規模土石流について、民間事業者の航空レーザー測量データなどを基に、崩落前後の地形を分析。排水設備の設置や補強対策を講じた形跡は確認できず「防災の面で手を打っていた感じはしない」とする。
 県内の「大規模盛土造成地」については、開発事業者が排水などの対策を講じ、行政の許認可を得て施工するため「安全性は確保されている」と認識を示す。ただ時間の経過に伴って、地下水の浸透による強度の変化や土砂の詰まりによる排水機能低下などの恐れを指摘。「定期的にチェックしないといけない」と強調する。
 県都市政策課によると、大規模盛土造成地は2004年の新潟県中越地震などで宅地被害が発生したことを受け、国土交通省が宅地耐震化を推進する目的でガイドラインを策定。「面積が3千平方メートル以上」などの「宅地」が調査対象で、県内では県と長崎、佐世保両市がそれぞれ18年度までに造成前後の地形図などを基に抽出。ホームページなどで地図を公表している。
 ガイドラインでは抽出後の手順として、盛り土や擁壁の形状、造成の年代などから、地盤の安定性を調べる優先度を評価することになっており、県は本年度、民間事業者に委託し作業を進めている。優先度が高いと判断されれば、各市町が地盤調査を実施することになるが、該当箇所内の所有者の合意形成や費用負担の問題などがあり、地盤調査には慎重な意見も多いという。
 蒋教授によると、県内でも大雨の影響で盛り土が不安定になり、道路の陥没などの災害につながる恐れはあるという。宅地開発から半世紀を超える箇所もあり「県民の安全が最優先。自治体は所有者に調査や対策の重要性を認識してもらうよう努め、取り組みを進めるべき」と語った。
 政府は熱海市の土石流災害を受け、盛り土の安全を全国で点検する方針を打ち出している。


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