【高校野球】出場辞退で戸惑った昨夏… 自問した主将の責務、支えになった父・中山秀征氏の言葉

青山学院高・中山脩悟主将【写真:川村虎大】

青山学院高の主将・中山脩悟投手「僕らは日本一早くこの夏に向け準備」

1883年創部、都内最古の歴史を誇る青山学院高(東東京)。同校ナインの姿は昨夏、東・西東京都独自大会の会場になかった。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、学校からの許可が下りず、抽選会前日に出場辞退を余儀なくされた。あれから1年、彼らは2年越しの夏をどんな思いで迎えたのか――。【川村虎大】

「僕らは日本一早く、この夏に向けて準備してきたチーム」

第103回全国野球選手権大会の東・西東京大会の開会式が行われていた今月3日。初戦を10日後に控え、小雨降る学校のグラウンドで主将の中山脩悟投手(3年)は自信に満ちていた。

「1年間、他の学校よりも野球をする事が当たり前ではなく、様々な方々の支えがあってできていることを実感しました。その部分は、どのチームにも負けないと思います」。昨年戦わずに負けた悔しさもある。夏への想いは、どこの学校よりも強い。

「正直『マジか……』って感じでしたよね」

1年前は、戸惑いしかなかった。不参加の決断をしたのは、離島の都八丈と合わせて2校だけ。他校が夏の大会でしのぎを削る中、自分たちは仲間に会うこともできなかった。

やり場のない思いを自宅で受け止めてくれたのは、父だった。バラエティ番組などで活躍するタレントの中山秀征氏。休みの日は、キャッチボールの相手やティー打撃の球出しをしてくれ、たくさんのアドバイスももらった。

「野球の神様は必ず見てくれている。自分たちがちゃんとやらないと、野球の神様も味方しないけど、信じてやれば必ず好結果はついてくる」

その一言で、心が軽くなった。「クヨクヨしてても仕方ないと前向けるようになりました。自分たちは大きなものを失ったけど、その分いいことがあるはずだという思いで練習に取り組むことができました」。主将がいつまでも引きずっていても、前には進まない。他のチームよりも新チームの秋に向け早く始動しようと切り替えた。

青山学院高・茂久田裕一監督【写真:川村虎大】

自粛明けも練習は2時間のみ、「目一杯練習させたい」と監督がとった行動

出場辞退という選択が簡単に受け入れられなかったのは、選手だけではない。茂久田裕一監督だって同じだった。

「やり場のない理不尽というかね……。なんと声かけて良いのか分からなかった。ありきたりの言葉しか出てこなかったですよね」。自粛期間が明けて練習を再開できても、2時間に限られた。さらにマスクを着用する必要があったため、安全を考慮して息が上がる練習はできず。選手たちに十分な環境を用意できなかった。

せめてもの思いで、自ら練習の準備と片付けを買って出た。誰よりも早くグラウンドに行き、ボールなどの道具を用意。さらに選手が帰った後、グラウンドにトンボをかけた。「2時間、目一杯練習させたいですから。これくらいしかできませんでしたけど」。そんな監督の思いを、中山は分かっていた。

1年秋に主将に指名されてから誰よりも厳しい言葉を受け、コミュニケーションを重ねてきた。会社員の茂久田監督は休日しか練習を見ることができないだけに「平日は脩悟が監督にならなければいけない」との方針も理解していた。「俺の思い、考えを理解してもらわなければ困る」と何度も言われてきた日々。振り返れば苦しいことの方が多かったかもしれないが、ただチームのため“監督役”を模索した。

思いは、しっかりナインに通じていた。たとえ2時間でも、低負荷での練習だとしても、野球ができる喜びを感じているのは、生き生きとした表情を見れば分かった。感情をぶつけるようになり、練習試合にも関わらず、ミスをして涙を流す選手もいた。

ただ、すぐ結果には結びつかなかった。昨秋の都大会本選では、小山台に0-10でコールド負け。今春も初戦で目黒日大に1-14で同じくコールド負けを喫した。夏に向けて不安がないと言えば嘘になる。それでも主戦投手でもある中山の気持ちは揺るがない。「勝てる」。強がりではなく、試行錯誤しながら歩んできた1年間が背中を押してくれる。

「他の学校とは違って、対外試合が少ない中で、春のような経験をできたのはよかったと思います。ミスは必ず出ると思うので、ミスが出ても僕が抑えるという気持ちで臨むことができれば、結果は必ず出てくると思います」

8日に幕を開けた東東京大会。青山学院高は13日に初戦を迎える。どこよりも早くこの夏を目指し、待ちに待った舞台がやってきた。堂々とグラウンドに立ち、あとは「野球の神様」を信じて戦うだけだ。(川村虎大 / Kodai Kawamura)

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