【高校野球】旭川実のプロ注目148キロ右腕・田中が目指す“幼馴染対決” 大阪桐蔭左腕は「目標」

旭川実の田中楓基【写真:石川加奈子】

旭川実・田中楓基は昨秋の北海道大会決勝で好投も北海に0-1で惜敗した

最速148キロを誇る旭川実の田中楓基(ふうき)投手(3年)が、自身初の甲子園出場を目指し、第103回全国高野球選手権大会北北海道大会(15日開幕、旭川スタルヒン)に挑む。

甲子園までマジック4。初戦の相手は帯広大谷に決まった。北海道高校No.1右腕は「一戦、一戦という気持ち。全員で目の前の相手を倒していきます」と力を込め、日本ハムの玉井大翔投手がいた2010年夏以来11年ぶりとなる北の頂点を見据える。

悔しい敗戦が成長の糧になった。昨秋の北海道大会決勝では、プロ注目左腕の木村大成投手擁する北海に0-1で惜敗した。緊迫した投手戦で許した安打はわずか5本。そのうちの1本が8回のソロ本塁打で決勝点になった。今でもその時の映像を時々見返す。「あの打席はほとんどストレート。あそこまで見せたら、打たれます」と苦笑しながら画面の中の自分にダメ出しをする。

今春の旭川支部予選の旭川大高戦も、偏った配球で打ち込まれて敗れた。延長12回180球完投し、11安打8失点(自責4)。「外のストレートを1本打たれたことで狙われていると錯覚して、インコースに頼り過ぎました。外角低めに投げ切る自信がなかったんでしょうね」と冷静に自己分析する。

春季大会後、外角低めに3球連続投げる課題を自らに課した。9メートルの距離から始め、徐々に距離を伸ばして、今夏の大会前には18.44メートルに到達。「今はラインがしっかり見えます」と自信を持って、外角低めに質の良い直球を投げ込む。スカウトの評価が高いスライダーに加え、110キロ前後だったカーブの球速を100キロ前後まで落とすことにも成功。50キロの緩急差で打者を翻弄しながら、ピンチではギアを一段上げる。メリハリの利いた大人の投球術を身につけた。

目標だった球速150キロ到達にはこだわらない。「出しにいくのではなく、抑えていく中で出ればうれしいなという感じです」。昨秋70キロだった体重が77キロに増えたことで、球速アップの手応えはあるが、チームを勝たせる投球を追求する。

大阪桐蔭・松浦とは旭川の新富野球少年団で一緒にプレー【写真:石川加奈子】

大阪桐蔭・松浦とは旭川の新富野球少年団で一緒にプレー

常に田中の投球が勝敗の鍵を握ってきた。ワンマンチームともなれば、不協和音が出てきてもおかしくないが、そんな空気は一切ない。1年夏からバッテリーを組む北口祥夢(しょうま)捕手(3年)は言う。「楓基がテングになったりしたら、バラバラになっていたと思います。でも、あいつは1年生の時から謙虚。チームをまとめたり、常にチームのことを考えてくれる。だから好きです」。

岡本大輔監督も、田中の人間性を高く評価する。「野球に対してストイックで、レベルの高い話ができます。大人の考えができる一方、みんなとバカを言い合う高校生らしさもあって、人間性が素晴らしい。それだけに良い思いをさせてあげたいですね」と語る。

副キャプテンを務める田中は、仲間思いだ。今夏の旭川支部予選では、0-0で迎えた終盤の好機に打席に向かう際、力をもらいたいと河原康太郎主将(3年)から借りたバットで決勝打を放った。「3年生のことが好き。本当にいつも楽しいので、少しでも長く一緒に野球をやりたいです。みんなの力を借りて、勝ってやろう! という気持ち」と田中は照れくさそうに笑う。

勝ち続ければ“幼なじみ対決”が実現するかもしれない。大阪桐蔭の150キロ左腕・松浦慶斗投手(3年)は父親同士が職場の同僚で、宮城県石巻市の社宅は隣だった。田中が小学1年の時に旭川に引っ越して離れ離れになったが、2011年の東日本大震災の後に松浦家も旭川に引っ越し。新富野球少年団で一緒にプレーすることになった。中学、高校と別のチームながら「小学生の時から常に上にいて、目標の存在」と意識してきた。甲子園で対戦すれば、新たなドラマが生まれるはずだ。

好きな言葉は「夢は正夢」。スポーツ店に飾ってあった日本ハム・栗山英樹監督のサインに添えられた言葉に惹かれ、グラブの一つに刺繍を入れている。「目指すは甲子園出場。その夢が正夢になれば」と最後の夏に集大成を見せる。(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

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