北海道に「ヒグマ緊急事態宣言」を!死傷者9人過去最悪ペース…専門家が警鐘

北海道でヒグマの被害が過去最悪になっている

北海道のヒグマ被害が、過去最悪の深刻な状況に陥っている。現時点での死傷者数はすでに9人で、このままいけば記録が残る1962年以降、最悪の被害となる見込みだ。北海道猟友会砂川支部長で、ヒグマのプロファイリングを得意とする池上治男氏は、この異常事態を乗り切るべく「ヒグマ緊急事態宣言」を発令すべきと提言。さらにヒグマ駆除の組織立ち上げも提唱した。

北海道では今年4月、道東の港町である厚岸町で山菜採りの男性がヒグマに襲われて死亡してからわずか3か月の間に、ヒグマによる死傷者が9人も出る異常事態が続いている。先月には、人口約200万人を抱える札幌市で東区の住宅街にヒグマが現れて4人が負傷。北海道第2の都市・旭川市でも中心部にヒグマが出没するなど、全国ニュースにならなかったものも数えればキリがないくらいヒグマが頻出しているのだ。

こうした状況に池上氏は、「今すぐヒグマ緊急事態宣言を出すべき!」と提言する。

「今年は全道的にあまりにもヒグマ出没件数が多すぎる。『去年と同じくらい』と言う人もいるが、プロファイリングする限り、去年は同じ個体が繰り返し出没するケースが多かったのに対し、今年は出没する個体数自体が多いと感じる。砂川だけでも1日に4頭も5頭もヒグマが出没する異常事態。今すぐ鈴木直道北海道知事は『ヒグマ緊急事態宣言』を出して注意喚起すべきだ」

雄大な北海道の山は多くの人にとって憧れの対象だが、現状の危険度から山への立ち入りは、原則としてハンターやガイドを伴うようにするなどの対策を取るべきだと池上氏は訴える。

実際にヒグマの脅威は現実となっている。先月末には世界遺産・知床半島の港町である羅臼で、民家の飼い犬3匹がヒグマに襲われて1匹が死ぬ事故が発生。今月2日には、道南の福島町で上半身を食い荒らされた女性とみられる遺体が、12日にはオホーツク海に近い滝上町で性別不明とされたほど損傷した女性の遺体が相次いで発見された。もはやヒグマの脅威は地域を問わず、全道に広がっている。いったい、どうしてこんなことになってしまったのか?

「やはり1990年を境に春グマ駆除をやめた影響が大きい。90年当時、道内のヒグマは2000~6000頭と言われ、数を減らしていたのは事実だが、その後、無計画な保護で数が増えすぎ、現在は約2万頭が生息すると言われる。開発以前の北海道ならいざ知らず、人との共存という点ではバランスを失っていると言えるのではないか。残念だが、もはや駆除しない限り、無尽蔵に人里に出てくる状態になっている」(池上氏)

春グマ駆除とは雪が融けきらぬ春先に、巣穴から出たヒグマの足跡を追って駆除するというもの。まだ草木が伸びていないので見通しもよく、少ないリスクで効率よく駆除することが可能だったが、ヒグマ保護への政策転換で廃止された。

とはいえ今後、再び春グマ駆除を復活させるのは簡単ではなさそうだ。というのも各自治体からヒグマ駆除に駆り出される猟友会のハンターは高齢化が顕著で、ヒグマを撃った経験を持つハンター自体が数えるほどだからだ。

「多くの人は、ハンターなら誰でもヒグマを撃てると思っているが大間違い。遠くの安全な場所から撃てばいいと思うかもしれないが、それは手負いにさせる可能性があって逆に危険。じっくり距離を縮めて一撃で仕留めなければいけない。でも、そんなことができるハンターはひと握りしかいない」

ヒグマ駆除にはハンティングとプロファイリングの技術が要求されるというが、そうした技術を持つハンターが少ないばかりか、次代の若手ハンターすら育っていない状況。このままでは道内のヒグマは増える一方だ。

池上氏は「行政が中心となって管理されたヒグマ駆除の組織を立ち上げるべき。そうでなければ自然がウリの北海道で、おちおち観光もできなくなる」と警鐘を鳴らす。過去最悪のヒグマ被害を更新しそうな状況からも、池上氏の言葉は無視できない。

© 株式会社東京スポーツ新聞社