【解説】ロシアに接近する韓国 狙うは「鉄道利権」と外交打開

ロシアの鼻先である黒海で6月28日から行なわれた米軍とウクライナ軍主導による合同海上訓練(sea Breeze 21)に、韓国は参加しなかった。背景として、ロシアの「裏庭」である黒海で同国を刺激したくなかったとの分析が出ている。同訓練には日本を含む32カ国から兵力5千人、艦艇32隻、航空機40機が参加し、上陸作戦訓練などを行った。米国が発表した公式資料には当初、韓国も参加国として国旗が掲載されていたが、その理由は不明だ。いずれにしても韓国は派兵しなかった。

韓国がロシアに接近する経済的理由

韓国がロシアに接近するのは、結論からいえば、経済的にも政治力学的にも、互いに利害が噛み合うからだ。

韓国の人気ポッドキャスト「イ・ジヌの手に収まる経済」(이진우의 손에 잡히는 경제)に出演したパク研究員は、6月30日のロシア特集において、黒海訓練への不参加はロシアへの気遣いがあると分析した。

(写真:2018年にロシアを国賓訪問した際にプーチン大統領と会談した文在寅大統領/青瓦台公式動画キャプション)

韓国産業研究院のパク・チョンウォン研究員は、その背景や経済協力の動きにつき詳しく語った。要約すると以下のとおりだ。

・韓国はロシアと経済協力を進めたいので、黒海で刺激したくない
・現在、ウラジオストックで両国協力で産業団地の開発が進められている
・ウラジオは韓国から近いので、物資の搬出入コストが低く、立地が良い
・産業団地はシベリア鉄道(TSR)の始点に所在することから、欧州までの陸上輸送が容易
・海上運賃が高騰・逼迫しており、北極海ルートや陸上輸送の需要が高まっている
・特に韓国のバッテリー企業が欧州拠点への素材など搬入が急増し、陸上輸送需要高い

(画像:韓ロ経済協力産業団地の見取り図/LH)

国際政治の力学も

パク研究員によると、韓露の接近には、北東アジアを取り巻く政治力学も作用しているようだ。

・対米上、中国とは手を組んでいるが、ロシアは常に中国を警戒している
・ただでさえ、極東地方では中国経済の影響が強まっている。ロシア沿海地方も元は中国の領土であり、現在も太平洋への港を渇望する中国に利することをしたくない。
・極東地方の経済開発は進めたいが、中国の助けは借りたくないのが本音であり、北方領土問題を抱える日本とも手を組みにくい状況である。そのため韓国が浮上した。

と、このような内容だ。たしかに、韓国の立場で考えてみたとき、中国と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)には何かと神経を使い、日本とは関係が冷え切っているのが現状だ。サード(ミサイル防衛)問題で中国との取引に支障を来し、南北協力の象徴だった開城工業団地は運営が停まった。日本とは半導体素材などの輸出規制(輸出管理強化)をめぐって対立が終わっていない。そのようななか、日中北と比べ比較的利害の薄いロシアと意気投合したという構図だろうか。この地域での外交的地位を高める上で、ロシアは韓国にとって悪くない「取引相手」となる。

日本ではあまり知られてないが、かつて国連開発計画(UNDP)主導のもと、豆満江周辺の朝中露国境地域を「黄金の三角地帯」とする「豆満江開発計画」が提唱され、不凍港であるロシア極東のザルビノ港は北朝鮮の羅津・先峰港(現・羅先経済貿易地帯)とともに、香港やシンガポールのような商業都市なれるポテンシャルがあるとされた。

しかし、朝鮮半島の冷戦構造をはじめとする北東アジアの緊張が解けないまま、上記開発計画も尻すぼみとなった。中国は独自に動いてはいるが、「太平洋への港を持つ」までには至っていない。2012年ごろには羅先の一部ふ頭を50年間租借したとの報道が出たことがあるが、どうやら立ち消えとなったようだ・

そのようななか、「豆満江開発計画」では主要プレイヤーではなかった韓国が、長い年月と様々な経済的・政治的要因が絡み合ったすえ、その果実を最初に掴む可能性が出ているのが現状だ。

狙うは「鉄道利権」

2000年代、南北朝鮮関係が改善するなか、韓国は南北鉄道(統一列車)の連結による、「釜山からウラジオ経由でロンドンまで」を夢見たことがある。結果的に、南北鉄道をすっ飛ばした形で、その夢が叶おうとしているが、行く行くは接続したいとの思惑もあるのだろう。

韓国は2018年に国際鉄道協力機構(OSShD)に加盟した。パク研究員によると、「韓国は過去20年にわたり同機構への加盟を試みていたが、ロシアのサポートで加盟できた」という。かつて社会主義国家は陸路で繋がっていたことから鉄道輸送が活発であり、当時の国々が今も主要なメンバーだが、それ以外の国が加盟国となったのはイランと韓国だけだ。

背景にはバッテリーの輸送問題がある。韓国バッテリー企業は特にそうだ。LGエナジーソリューション、サムスンSDI、SKイノベーションという韓国電池メーカーは、EVバッテリー市場で世界シェアの約3分の1を占めるなど好調であり、EVブームの欧州で特に需要がある。そのため、現地工場に素材や部品などを送る必要があるが、海上ルートは逼迫、航空ルートはバッテリーの火災リスクのため輸送に向かない。そのためのシベリア鉄道であり、国際鉄道協力機構への加盟だ。

韓国とロシアは国交締結31周年を今年迎える。近くて遠かった国同士が様々な思惑のもとに手を結ぼうとしている。

参考記事
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