30代世帯年収1000万、退職金なしの夫婦。住宅ローン・教育費・老後資金の貯蓄プランは?

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。 今回の相談者は、36歳、会社員の男性。退職金がないため、老後資金が心配な相談者。住宅ローンの完済予定は71歳、これから子どもも欲しいといいますが、どんなマネープランを立てればいいでしょうか? FPの高山一惠氏がお答えします。

今の会社は退職金制度がないため、老後の資金が心配です。また、36歳にして住宅を購入し、住宅ローンを35年(変動)で組みました。完済予定が71歳になるため、65歳定年時までに完済したいと思っています。

今は共働きで世帯年収は1,000万円程度のため、貯蓄もできていますが、今後子どもも最低1人は欲しいと思っていますので、老後資金がどのくらい必要で、どのくらい貯められるのか心配です。

【相談者プロフィール】

・男性、36歳、会社員、既婚

・同居家族について:

夫(相談者)/会社員(SE)、年収570万円

妻/31歳、会社員(SE)、年収420万円

・住居の形態:持ち家(戸建て・千葉県)

・毎月の世帯の手取り金額:49万円

・年間の世帯の手取りボーナス額:160万円

・毎月の世帯の支出の目安:27万円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:11万円

・食費:6万5,000円

・水道光熱費:8,000円

・保険料:1万円

・通信費:1万2,000円

・その他:6万5,000円

【資産状況】

・現在の貯金総額(投資分は含まない):650万円

・現在の投資総額:600万円

・現在の負債総額:4,030万円

(住宅ローン4,100万円、変動金利0.68%、返済期間35年)

・退職金なし


高山:ご相談ありがとうございます。現在、DINKSでバリバリと働いていらっしゃいますが、将来、お子さんを授かりたいとのこと。お子さんを授かることはとても喜ばしいことですが、一方で、働き方を見直したり、教育費を準備したりと、これまでとは違う視点からマネープランを考えなくてはいけなくなります。お子さんを授かることを前提に、住宅ローンの繰上げ返済、教育費、老後資金など、今後のマネープランのポイントを考えてみましょう。

繰り上げ返済のタイミングはいつが良い?

マイホームを購入され、嬉しい反面、今後のマネープランも心配なようですね。

35年ローンで71歳に返済終了予定とのことですが、ご相談者さんもおっしゃるように、繰り上げ返済を実行して、65歳までにローンの返済は終了したいところですね。

基本的に、繰り上げ返済は、借り入れから早期に実行するほうが利息軽減効果は高い仕組みになっています。では、早期に繰り上げ返済をしようと思うと、気になるのが、住宅ローン控除との兼ね合いだと思います。

住宅ローン控除は、消費税増税に伴い、控除期間が10年から13年間に延長になっています。1年目から10年目までは、住宅ローン控除で税額から控除されるのは、「年末時点のローン残高の1%」です。11年目から13年目の控除額は少し複雑で「年末時点のローン残高の1%」と「建物購入価格×2%÷3」のいずれかの小さい金額となっています。

一般的には、繰り上げ返済をする金額にもよりますが、ローン金利が1%以下で借り入れできている場合であれば、住宅ローン控除の適用期間中に繰り上げ返済を行うと損をするケースが多いようです。

ご相談者さんの場合、借り入れ金利は、0.68%とのことですから、住宅ローンの適用期間中に返済するよりも、住宅ローン控除が終了した後に、一括で繰り上げ返済をしたほうがお得になる可能性が高いといえます。

65歳までに完済するための返済額の目安は?

詳しい家計の状況がわかりませんので、具体的なシミュレーションは控えますが、一般論に当てはめると、ご相談者さんのケースでは、住宅ローン減税が終了した13年後に繰り上げ返済する方がお得なので、どのくらいの金額を繰り上げ返済すると、65歳までに完済できるかをシミュレーションしてみます。

仮に4,100万円を変動金利0.68%で35年間借り、13年後に600万円を繰り上げ返済するとします。利息軽減効果を考慮して、期間短縮型を選択すると、返済期間が約5年間縮小します。

現在、すでにローンの返済も進んでいるかと思いますが、繰り上げ返済の金額の目安にしていただければと思います。実際には、いつの段階で繰り上げ返済をするとお得なのかは、詳細な情報を考慮してシミュレーションをする必要がありますので、あくまでも参考としてみてください。

また、繰り上げ返済をする場合には、生活費の半年から1年分の現金は残すようにしてください。何か不足の事態が起きた時に、現金があるかないかはとても大切なので、繰り上げ返済をしすぎて、不足の事態に備えられないということはないようにしましょう。

出産後の家計をシミュレーションする

現在の状況であれば、順調に繰り上げ返済の資金も貯まっていくと思います。とはいえ、将来的にお子さんをご希望とのこと。お子さんができると家計の状況は変わってくると思いますので、まずは、何年後に子どもができるのかを仮定して家計のシミュレーションをしておくことが大切です。

その際、子どもが生まれた場合の夫婦の働き方をどうするのかが大きなポイントとなるでしょう。仮に、奥様が産休・育休を取得する場合には、当然のことながら収入が変化します。産休、育休を取得した場合の給付金も合わせて確認しておくと安心です。

通常、会社員の人は、「産前の6週間(42日)と産後の8週間(56日)あわせて98日」は、いわゆる産休として休むことが認められています。そして、産休中の給料を補ってくれるありがたい存在が「出産手当金」です。健康保険に入っていれば、支給日額に会社を休んだ日数分受け取ることができます。

ちなみに、支給日額は、「支給開始日以前の継続した12カ月間の各月の標準報酬月額を平均した金額を30日で割り、その金額に2/3を掛けた金額」です。

育児休業中の制度を確認してみよう

また、産休が終わると、今度は、育児休業に入る人は多いでしょう。原則として、子どもが1歳になるまで育休を取ることが可能です。育休中の収入減をカバーするのは、「育児休業給付金」です。

「育児休業給付金」は、雇用保険に加入していて、育児休業開始前の2年間のうち12カ月間、各月の労働日数が11日を超えている人が受け取れる制度。原則子どもが満1歳になるまで受け取ることができますが、認可保育園に申し込んだものの空きがなく、市町村から「不承諾」の通知書を受取っている場合には1歳6カ月まで延長することができます。

育児休業給付金の金額は、育休に入って最初の6カ月間については67%、その後の6ヶ月間は50%支給されます。

参考までに産休、育休中の健康保険や厚生年金保険料は免除されます。保険料を支払わないからといって、将来の年金が減るということはありません。

具体的に給付金がどれくらいもらえるのかをシミュレーションしてみると、出産後の家計のイメージが湧きやすいでしょう。

この他、出産後にもらえるお金としては、「出産育児一時金」や「児童手当」などがあります。出産するとお金がかかるというイメージがありますが、給付金などを上手に活用すれば必要以上に心配することはありません。

また、現在、貯蓄が600万円ありますから、奥様が仕事復帰するまで一時的に収入が減ってしまったとしても貯蓄から取り崩すなどして対処することができるでしょう。

中長期的な教育プランのイメージを

ご相談者さんは、老後の資金についてもとても心配されているようですね。自分たちの老後の資金が十分に準備できるかどうかの鍵は、子どもの教育費にあります。ですから、子どもの教育費についても中長期的にイメージしてみましょう。

出産時や子どもが小さいうちは、そんなにお金がかからないため、奥様が仕事をセーブしたとしても家計が逼迫することはないでしょう。その分、スイミングや英語、ピアノ、運動教室など、あれもこれもと習い事をさせてしまうご家庭も多いかもしれませんが、子どもが成長するにつれてお金のかかり方は加速します。

とはいえ、ひとくちにお金がかかるといっても、子どもの進学コースによってもかかるお金は全く違います。

参考までに幼稚園から大学まで、オール公立の場合には、子ども1人につき約1,000万円ですが、オール私立の場合には、子ども1人につき約2,500万円程度かかります。

最近は、首都圏の高年収世帯を中心に私立受験をさせる家庭が増えているようですが、仮に子どもを中学から私立に通わせようとした場合、小学校4年生から6年生までで塾代が総額300万円程度かかります。また、その後の学費で月額10万円程度はかかるでしょう。

教育費の目安と貯め方は?

教育費準備の考え方として、子どもが高校を卒業するまでの学費は家計からやりくりし、大学の学費は、子どもが18歳になるまでに、300〜500万円を準備するというのが基本です。

子どもが0歳から15歳まで支給される「児童手当」を使わずに貯めると、子どもが15歳の時に、約200万円貯まります。児童手当とは別に子どもが0歳の時から18歳まで毎月1万5,000円貯めると、324万円になります。児童手当と合計すると、524万円になりますので、大学の学費はクリアできます。

つまり、中学、高校と子どもが私立に通う場合には、大学の資金のために貯蓄しつつ、家計から教育費として月額10万円程度を捻出することができるかどうかが目安になります。中学、高校と子どもが公立に通う場合には、家計から教育費として月額3〜4万円程度の支出が目安になります。

ただし、一定の条件を満たせば、私立高校、公立高校どちらに進学する場合でも助成制度があります。子どもの進学にまつわる助成制度なども調べておくと良いでしょう。

老後資金はいくら必要?

どれくらいの教育費がかかるのかイメージできたところで、今度は、老後までにどれくらいお金を準備しておいたら良いのかを考えてみましょう。

参考までに現在すでにリタイア生活を送っている人の平均的な家計をみてみます。リタイア世帯の生活費は、夫婦の場合で約23万7,659円となっています(総務省「家計調査」2019年)。もらえる公的年金の平均額などと相殺すると、で約3万3,000円の“赤字”になっています。

ちなみに、90歳まで生きると仮定すると、毎月約3万3,000円を26年間貯蓄から取り崩すことになるので、約1,030万円程度足りません。このお金に加えて高齢になると、病気や介護状態になる可能性も高く、医療費、介護費用として1人あたり500万円程度を準備しておきたいところです。そうすると、リタイアするまでに夫婦で最低,2000万円は貯めておきたいところです。

ただし、上記のデータは、衣食住の基本生活かつ、持ち家を前提にした費用です。旅行に行ったり、高級レストランで食事をしたり、孫にお小遣いをあげたりと、いわゆる、ゆとりある老後を送るためには、夫婦2人合わせて35〜36万円が必要といわれています。

ですから、どんな老後を送りたいのかによって、必要になるお金は変わってくるわけです。

ご相談者さんの場合、退職金制度がないようですから、早い時期からコツコツと老後資金を準備していくことが大切です。

老後費用2000万をどうやって準備する?

仮に老後までに夫婦2人分の費用として2,000万円を貯める場合を考えてみましょう。中長期的に安定的にお金を増やしていくためには、「投資信託積立」が有効です。

ご相談者さんは、現在、36歳とのことなので、65歳までを老後資金の準備期間と考えると29年間あります。

仮に毎月3万円をタンス預金で年間貯めると972万円になりますが、3%の利回りの投資信託で積み立てることができれば、約1,660万円、4%の利回りの商品で積み立てることができれば、約1,960万円になります。金融庁の資料によると、国内外の株、債券に20年間(1995年から2015年)分散投資した場合、平均利回りは4%程度とのこと。バランスファンドなどを活用して国際分散投資を心がければ、4%程度の利回りで運用できる可能性は高いでしょう。つまり、今から4%程度の利回りの商品で毎月3万円を積み立てることができれば、基本的な老後資金は貯まるということです。

iDeCo、つみたてNISAを活用すれば、節税の効果も得られるので、さらに、効率的にお金を増やすことができます。

ライフイベントの費用を「見える化」していこう

今回は、あくまでも一般的な教育資金や老後資金についてお話ししましたが、今回のデータを参考にしていただき、子どもが誕生することを前提に、収支を考えてみましょう。そうすることで、子ども誕生後の家計のイメージが具体化し、繰り上げ返済や教育費、老後費用に備えてそれぞれどれくらいの金額を貯蓄していかなくてはならないのかが把握できるでしょう。できれば、シミュレーションを元にご夫婦で話し合っていただくと、今後の働き方なども含めて、総合的に将来のマネープランがイメージできると思います。

先行き不透明な時代ですが、まずは、今後の大きなイベントについて費用を「見える化」し、思い描く人生を実現するべく、行動していきましょう。

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