【宮永篤史の駄菓子屋探訪5】茨城県取手市「菊地屋酒店」フレンドリーな子どもが集まる社会インフラのような店

全国約400軒の駄菓子屋を旅した「駄菓子屋いながき」店主・宮永篤史が、「昔ながらの駄菓子屋を未来に残したい」という思いで、これまで息子とともに訪れた駄菓子屋を紹介します。今回は茨城県取手市の「菊地屋酒店」です。

駄菓子屋のゴールデンタイムに遭遇

インターネットで見つけた情報を頼りに、自宅から1時間半ほどかけて千葉県北部にあるお店へ向かったのですが、着いたらなんと臨時休業。昔ながらの駄菓子屋は「不定休」という魔法のお休みシステムを採用しているところが多いのですが、地元の人でないと確認する手段に乏しいので、たまにこういったことがあります(笑)。

せっかく遠出してきたので、このままで手ぶらで帰るわけにも行かない・・・近所に駄菓子屋がないかその場で調べると、利根川を渡った茨城県側でそれらしき店舗を見つけたので、訪ねてみました。時間はちょうど駄菓子屋のゴールデンタイム(※)。「菊地屋酒店」という名前ですが、店前にはたくさんの子ども用自転車が並んでいるので間違いありません。

※「駄菓子屋のゴールデンタイム」は宮永が独自に使っている用語で、下校してからすぐ駄菓子屋へ来る、熱量の高い子どもたちで混雑する平日15時半〜16時半のこと。お店の人も大変そうなので、普段はなるべく避けています。

ご当地ものが並ぶ店内

酒屋がベースになっている食料品店といった品ぞろえで、生鮮食品や日用品、もちろん駄菓子もあり、子どもたちでにぎわっている店内。お酒コーナーには地元・茨城県産の日本酒やワインも並んでおり、せっかくのご当地ものなので購入しました!

特徴的なのは、一角に子どもたちが集まれるスペースがあること。ベンチが置かれ、バスの待合所のような雰囲気ですが、なぜか学習机もあります。聞けば、店主の娘さんが使っていたものだそうで、引き出しの中にはお客さんが自由に書き込めるコミュニケーションノートが仕込まれていました。

それにしてもこちら、昔よく通った、月曜日発売の週刊少年誌を2日前の土曜日に売ってくれる酒屋さんに似ていて、初めて来た気がしません。目の前にある景色を通じて、今はなきお店に思いをはせることができるのも、駄菓子屋探訪の楽しさのひとつです。

「うちは駄菓子屋というよりは、やっぱり酒屋」

すぐそばに小学校・中学校がある菊地屋酒店は、昭和35年(1960年)ごろの創業。まだ給食がなかった時代は、中学生が昼にパンを買いに来ていたこともあったそうです。

コンビニやスーパーマーケットの登場でお酒の販売に影響が出てきたころ、もともと子どもたちの利用が多かったこともあり、駄菓子の売り場を拡張。目の前の道路も交通量が増えたことから飲食スペースも作り、現在のかたちになったとのこと。

「茨城って、都道府県の魅力度ランキングで最下位常連なんですよ。でも住んでるとわかりますけど、良いところだってたくさんあるのに。誰が決めてるんですか、あれ(笑)。せっかく訪ねて来てもらったけど、うちは駄菓子屋というよりは、やっぱり酒屋だと思います。地域も高齢化してきて、そういう方々のための売り物も多いですし。だけど、大学生とかになって久しぶりに来た子に、『久しぶり、あんた、さくら大根好きだったよね?』『なんで覚えてるの!?』みたいな話ができるのも楽しいし、やっぱり駄菓子屋でもあるのかな」

やけに人懐っこい子たちが集まっていて、初対面の宮永に対して突然、家族構成を話してきたり、別の駄菓子屋へ案内してくれたり。みんなフレンドリーすぎて、小学生の子を持つ親としてはちょっと不安も感じましたが(笑)、現代社会で失われつつあるものがここにはありました。高齢者宅へ灯油や食料品・日用品の配達もしているという菊地屋酒店。地域になくてはならない、さまざまな機能を持った社会インフラのような個人商店でした。

菊地屋酒店

住所:茨城県取手市下高井2288-3

電話:0297-78-8446

営業時間:平日7:00〜19:00

定休日:不定休

[All photos by Atsushi Miyanaga]

© 株式会社オンエア