【東京五輪】ベラルーシ大統領は「欧州最後の独裁者」 ツィマノウスカヤが亡命選んだ暗い背景

ベラルーシのルカシェンコ大統領(ロイター)

東京五輪に出場していた陸上女子のクリスツィナ・ツィマノウスカヤ(ベラルーシ)が亡命を申請し、世界を巻き込んだ騒動に発展している。ツィマノウスカヤはSNSなどで自身が投獄される可能性に触れながら「帰国するのが怖い」と語ったが、そこまでおびえるのも無理はない。ベラルーシは「欧州最後の独裁者」による恐怖政治で、反体制派には〝地獄の拷問〟まで行われているという。その恐るべき実態とは――。

ツィマノウスカヤは7月30日に女子100メートル予選に出場した。2日の200メートル予選にも出場する予定だったが、突然専門外の1600メートルリレー(5日)への出場を命じられたためコーチを批判。すると、代表チームから帰国命令が出た。だが、空港で帰国を拒否し、SNSなどで「帰国すれば投獄されるかもしれない」などと訴えて警察まで出動する大騒動に。2日にポーランドに亡命を申請して同国大使館に入った。

世界が注目する今回の騒動の背景には、ベラルーシの前近代的な恐怖政治にある。1994年に就任したアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は憲法を改正して多選を続け、27年もの長期政権を築いている。その強引な政治手法は「欧州最後の独裁者」と呼ばれており、過去には〝ヒトラー礼賛発言〟で波紋を呼ぶなど、恐怖の独裁者として知れ渡っている。

反体制派に対する激しい弾圧も世界に悪名高い。昨年の大統領選挙で政権打倒を掲げて立候補して敗れたスベトラーナ・チハノフスカヤ氏は、同年9月に欧州連合(EU)の欧州議会でルカシェンコ政権の過酷な拷問の実態を暴露。獄中では拘束された人々に対し、暴行や殴打が日常茶飯事だったと訴えた。

ベラルーシメディア「メディアゾーナ」は「激しい残虐行為が行われている」として恐るべき拷問の実態を報道。警棒などの凶器による暴行が連日連夜繰り返されるほか、スタンガンによる〝電気拷問〟、食事や水が与えられない〝飢餓拷問〟、裏庭に集められて数十時間にわたって直立不動を強いられるなど聞くに堪えない暴挙が行われているという。

ツィマノウスカヤは過去に政府への批判的な発言が問題視されており、帰国すればこうした拷問にあうと身の危険を感じて亡命に至ったとみられる。6月にはベラルーシ政府が反体制派ジャーナリストのロマン・プロタセビッチ氏が搭乗した旅客機を緊急着陸させたうえで拘束した事件が発生し、世界中から大きな批判が起きたばかりだ。

「平和の祭典」を舞台に発生した、ベラルーシを巡る国際問題。引き続き今後の動向に注目が集まる。

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