【体操】個人2冠・橋本大輝のブレない強メンタルを生んだ「どんな時も笑顔」の鉄則

笑顔で2つ目の金メダルを掲げる橋本大輝

「新・キング」襲名だ。東京五輪・体操男子種目別鉄棒決勝(3日、有明体操競技場)で新エース・橋本大輝(19=順大)が15・066点のハイスコアで優勝。団体の銀、個人総合の金に続く3つ目のメダルを獲得し、37年ぶりの「個人2冠」を達成した。プレッシャーがかかる場面でも表情を一切乱さず、涙を流したのも一度きり。この強いメンタルはどこから生まれたのか。根底にあるのは、恩師から受け継いだ〝鉄のおきて〟だった――。

とても初出場とは思えない。この日の鉄棒決勝は出場した8人のうち、4人が落下する異常事態となった。ライバルたちが次々と脱落していく中、7番目に登場した橋本は堂々たる演技を披露した。高難度の離れ技を成功させ、最後はまるでマットに足が吸いつくようにピタリと着地。手をポンッと叩いて、満足げな笑みを浮かべた。

個人総合に続く金メダルで、1984年ロサンゼルス五輪の具志堅幸司以来37年ぶりの「個人2冠」を達成。個人総合2連覇で「キング」の称号を持つ内村航平(ジョイカル)でさえ果たせなかった快挙をやってのけた。試合後の橋本は「周りの人が攻めて失敗し、やりづらい雰囲気だった。人は人、自分は自分だと思って切り替えた」。周囲の状況に左右されない心の強さをのぞかせた。

そのブレない心はどこから来るのか。母校・市立船橋高(千葉)の体操部総監督の神田真司氏は「橋本はもう今のままでいい。特別なことは何もない。失敗したってグチャグチャ言いませんよ」と当時から自由奔放にやらせていたが「これだけは厳しく言う」と強調していたことがある。その一つが「態度」だった。「自分が調子悪いからといって、少しでも顔に出したら強く注意します」(神田氏)

実際、この件を橋本本人にぶつけると、次のように明かしている。「高校2年の時、調子悪くて暗い顔をしていたら先生に怒られました。もっと明るくしろって。調子が悪いのは自分。それを受け止めずに暗くなって周りを嫌な雰囲気にしてはいけない。笑顔でやるようにしたら調子が上がり、今もキープできています」

2019年秋の世界選手権では失敗して涙を流した。「悔し涙は後にも先にもあれだけ」と橋本は振り返るが、そのたった1回の涙さえも神田氏に怒られたという。どんな時も笑顔――。この鉄則が鋼のメンタルをつくり上げたのだ。

恩師の教えは、競技以外の部分でも生かされている。以前、橋本がメディアに対するコメントに迷っていた時、神田氏は「思ったことをストレートに言え。ああだこうだ考えるからウソが生じる。本音をしゃべって、間違ったら謝れ。あとは俺が責任を持つ!」とアドバイスを送った。

これで気持ちが楽になった橋本は堂々と言いたいことを語り、不思議と気持ちも前向きになれた。今も橋本は小ぎれいにまとめるような言葉は一切、口にしない。常に自分に正直に話すスタイルを貫いたことで、運気も上昇したという。

すでに王者の風格が漂う19歳。五輪閉幕前日の7日には20歳になる。大会を振り返り「自分の成長を感じられた。10代最後に、いいプレゼントを自分から自分にあげることができた」と誇らしげに笑った。すでに心は24年パリ五輪での連覇に向かっているが、恩師の〝鉄のおきて〟を胸に戦う姿勢が変わることはない。

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