五風十雨の願い

 「五風十雨(ごふうじゅうう)」という。5日に一度、風が吹き、10日に一度は雨が降る。農作物がよく育つにはそれくらいがちょうどいいと古人は教える。世の中が太平であることも意味するという▲小降りになったかと思えば、たたきつけるように激しく降りだす。いつ収まるとも知れないこの大雨は「十雨」から程遠い。県内各地で浸水、土砂崩れ、道路の陥没と、被害が広がっている▲〈私がいないと私を求め、私がいると私の前から逃げる。私はだぁれ?〉。東欧に伝わるなぞなぞの答えは「雨」。干天の慈雨は求めても、豪雨が迫れば逃げるしかない。県内では広く避難指示が出された。避難した先で心配を募らせる人も少なくない▲「災害級の大雨」はしばらく続くという。きのうはお盆の入りで、いつもなら帰省と墓参りの頃だが、コロナ感染の急拡大で帰省を控えた人、この大雨でお参りを見合わせた人も多いだろう▲実家に「ただいま」の声が響いたり、しんみりと物思いに誘われたりする例年の盆の光景とは違っている。首都の医療現場はコロナ禍で「災害レベルの非常事態」にあり、列島を「災害級」の危機や危険がすっぽり覆う▲程よく、ちょうどよく、例年のように。ささやかな願いのはずが切なる願いになっている。平らかな世を表す「五風十雨」を胸で唱える。(徹)

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