雨が尾を引く

 きのう車を走らせていると、フロントガラスの向こうを1匹のトンボが横切った。お盆を過ぎた頃から、軽やかに飛ぶ姿をたまに目にする。コロナ禍という常ならぬ日々が長いせいか、例年と変わらない風景にいくらか心が安らぐ▲秋の風物が現れたのを合図に、夏はそろそろ終わりだろうか。きのうは二十四節気の一つ「処暑」だった。暑気が収まる頃とされる▲県内は7月下旬から8月上旬にかけて気温35度以上の猛暑日もあったが、8月中旬からこっち、最高気温が30度を割り込む日も多い。昨年のような炎暑、酷暑には至らずに盛夏が過ぎた▲日照りを雨雲が遮ったためだが、その代わりに時季外れの大雨、長雨が爪痕を残した。お盆の頃の記録的な大雨と土砂崩れは人の命を奪い、非情、悲痛というほかない。きょう、あすは台風の接近でまたも天気が崩れるとみられる▲年によっては干天で作物がやられ、農家を悩ませる頃でもある。今年は雨で作物の成長が遅れ、種まきも時期がずれ込んでいるらしい。日差しよりも雨が尾を引くという、例年にない晩夏になった▲俗に〈トンボが低く飛ぶと天気が悪くなる〉と言う。きのう見たのも低空飛行で、雨が近いと知らせていたのだろう。トンボを高く見上げながら夏の後ろ姿を見送るのは、少し先のことらしい。(徹)

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