退陣へ

 党の幹事長と会談し、総裁選に出馬する意向を伝えた…どの新聞にも昨日、その記事が載ったばかりだ。驚きの前言撤回、急展開である。菅義偉首相が自民党総裁選への出馬を取りやめた。事実上の退陣表明▲昨日の記事が額面通りなら、朝、目が覚めたとたんに気が変わったか、眠れぬ一夜を過ごしながら考え抜いたか。それとも、会談が記事になるまでのどこかに、何かの思惑や誰かのミスリードが潜んでいたのか。謎だ▲もっとも退陣そのものは自然な決断にも映る。新型コロナ対策は手詰まりが否めず、好転の兆しが見えない。重要な選挙で黒星が続き、内閣支持率は危険水域が迫る。言葉は国民に届かない▲今週半ば、解散総選挙の前倒しを否定した口調は、最近のこの人には珍しく決然として聞こえた。消える間際のろうそくを想起するのはさすがに失礼が過ぎるか▲官邸で記者たちの取材に応じ、コロナ対策と総裁選の選挙活動の両立にはばく大なエネルギーが必要だ-と話した。しかし、その事情は前から変わらないのだから、急な心変わりを説明したことにはならない▲立ち止まった時間は2分足らずだった。続きの質問を振り切るように立ち去った。あまり言いたくないが「専念」と言うべきところを最後まで「センニン」と言い間違え続けた。(智)

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