野球少年が落ち込んでいる時にどう対処すべき? 大人がやりがちな2つの“失敗”とは

野球少年が落ち込んでいる時の対処は?【写真:Getty Images】

筒井香さんは幅広い年代の選手をメンタル面でサポートしている

少年野球の世界では子どもだって悩む。練習した成果を試合で発揮できない。感情をコントロールできない。モチベーションを維持できない。メンタルの重要性を分かっていても、思い通りにするのは難しい。ジュニア世代のスポーツメンタルトレーニングを指導する筒井香さんにネガティブな感情をコントロールする方法を聞いた。

――筒井さんは現在、日本スポーツ心理学会認定のスポーツメンタルトレーニング指導士として主にどんな活動をされていますか?

「中学生くらいの年代からプロ選手まで、メンタルトレーニングの心理的スキルの指導や心理サポートをしています。携わっている仕事の中には、フィギュアスケートや車いすバスケットボール、ボッチャといったオリンピックやパラリンピックを目指す選手もおられます」

――ジュニア世代を指導やサポートをする際、どんなことを心がけていますか?

「大切なのは『子どもは大人の単なるミニチュア版ではない』ということです。それぞれの発達過程を追っていくことが重要で、10代のうちに何を学べばいいのか、何を学んでほしいのかを伝えるようにしています。この年代は、自分作り、アイデンティティを確立していく時期です。色んなことに悩んで迷います。どんな時に自分らしさが出るのか、どんな時に焦るのかなど、競技を通じて自分を知ってほしいですね。

競技中は様々な感情を経験すると思います。『感情はコントロールしないといけない』とネガティブに捉えられることもありますが、これは人間らしさだと思います。自分の感情をコントロールするには、まずは感じる、気付くことが大切。競技をしている自分の心の動きや、自分らしさに気付くことを経験してほしいです」

スポーツメンタルトレーニング指導士の筒井香さん【写真提供:株式会社BorderLeSS】

ネガティブは感情は必要なもの、イライラする理由に気付くのが第一歩

――感受性豊かな10代は感情のコントロールが難しいと思います。特に、ネガティブな気持ちをどのように抑えればいいのでしょうか?

「ネガティブな感情は大人もマイナスに捉えがちですが、感情は生きるために必要なものと考えられています。なぜ人類は生き残ってきたのか、進化の中で絶滅しなかったのかというと、ネガティブな感情をうまく使えたからということも考えられます。危ないと感じたら逃げる、危険に備えるというように、ネガティブな感情は優秀な証です。ネガティブな気持ちになった自分をネガティブに考えるのではなく、ポジティブに受け止めるのが大事になります。

友達と喧嘩したら、イライラしたり落ち込んだりしますが、それには理由がありますよね。仲良くしたかったからかもしれませんし、自分の思いを伝えたかったからかもしれません。そこに気付くのがすごく大切なんです。子どもの時は、何にイライラしているか自分でも分からないことが多いと思います。イライラする人に問題があるわけではなく、何かが欠けているわけでもありません。ゆっくり考えて、イライラしている理由に気付くのが、感情をコントロールする第一歩となります」

感情を言葉にするのが大事、大人が先走るのはNG

――なぜ、頭では理解していても、感情をコントロールするのは難しいのでしょうか?

「まだ10代は成長過程なので、身近にいる大人の役割も重要になります。子どもたちが怒ったり、落ち込んだりするのは、練習しているのに結果が出ない自分への苛立ちや悔しさなど、それぞれ理由があります。そこで、大人がやりがちな“失敗”が2つあります。

1つは、子どもが感情を言葉にする機会を大人が先走って奪ってしまうことです。試合に負けたお子さんに対して、保護者や指導者の方が『悔しかったよね』と先に言ってしまうのを、現場でよく見聞きします。話をしようとしている子どもが、大人の言葉に『うん、うん』とうなずくだけの状況です。感情をコントロールするには感情を言葉にするのが大事で、頭の中の整理にもつながります。これが『気付いて対処』です。大人が先に言ってしまうと整理にはなりません。部屋の片付けを親がやっていると、いつまでも自分で片付ける力がつかないのと同じなので、先に言語化してしまうのはグッと我慢して待つことが大切だと思います。

もう1つ、注意してほしいのは『そんなに落ち込まなくていいよ』というように励ますことです。もちろん、励ましは、うまくいく時もあります。ただ、子どもたちには『あんなに練習したのに』と落ち込む理由があります。特に、野球はチームスポーツなので、『チームに迷惑かけた』と感じてしまいます。その時に、周りの大人がいきなり『落ち込まなくていいよ』と声をかけるのではなく、『落ち込むのは、それだけ練習してきたからなんだね』と、まずは子どもに生じた感情をそのまま受け入れるのが大切です。落ち込むだけの理由があるからですね。これが『心に寄り添う』ということだと思います。

オリンピックやパラリンピックに出場する選手でも一緒で、周りから見ると銀メダルや銅メダルを獲ったら『おめでとう』と声をかけたくなります。でも、本人は金メダルにこだわっていたり、自分のプレー自体には納得していなかったりする場合があります。周りはメダルを獲ったことを祝福しますが、本人なりの悔しさがあるので、選手は、自分の感情と周りの言葉のずれに苦しくなる時もあります。逆に、メダルに届かず4位でも、力を出し切って達成感を得られる選手もいます。それぞれの子どもたちにポジティブな感情になる理由、ネガティブな感情になる理由があると、大人は理解しておくことが重要ですね」

○プロフィール
筒井香(つつい・かおり)スポーツメンタルトレーニング指導士。大阪府大阪市出身。高校時代にサッカー部でメンタルリーダーを務めた経験から、心理面でアスリートを支えることに関心を持つ。大学・大学院で人間行動学やスポーツ心理学を専攻し、研究を重ねて2015年に博士号(学術)を取得。その後、スポーツ現場や企業などでメンタルトレーニング業務に従事。2020年にアスリートのメンタルサポートやキャリア教育などを事業とする株式会社BorderLeSSを設立。子どもたちからトップアスリートまで幅広くメンタル面でサポートしながら、複数の大学で非常勤講師を務めるなど研究・教育活動にも従事している。
Twitter:https://twitter.com/PhD_Kaori(記事提供:First-Pitch編集部)

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