「やってる感」の行く末

 出来はよくても仕上がりが遅い。出来はまずいが早く仕上がる。どっちがいいか。俗に「巧遅(こうち)は拙速に如(し)かず」という。ぐずぐずするより、出来が悪くてもさっさとやる方がましだ。中国のいにしえの武将、孫子の言葉だという▲いわば「スピード感」の勧めだが、それも場合によりけりだろう。人は時に、中身はともかくも行動の早さで評価を得ようとするが、今で言う「やってる感」を示すだけでは果実を生まない▲会計検査院が先ごろ公表した検査報告は、政府のむなしい「やってる感」を浮き上がらせる。コロナ対策として昨年、全世帯に配った「アベノマスク」などの布マスクは、今年3月の時点で8200万枚余りが倉庫で眠っていた。115億円分になる▲保管料は3月までに6億円に上り、この先も年間、億単位を要するという。不良品の続出で、検品にも21億円かかった▲アベノマスクは不要論が強かった上、配られた頃には品薄は解消されていた。介護施設向けのマスクは「一律配布」の予定が一転、希望する施設への配布になり、大量に余ってしまった▲出来は悪いし、やるのも遅い。巧遅でも拙速でもない、これを何と呼ぶのだろう。余ったマスクの活用を政府は「必要に応じて検討する」と言うにとどまる。「マスク騒動」の後始末が終わらない。(徹)

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