ホロンコ市

 晩秋を迎えると島原半島の馬の競り市「ホロンコ市」が思い出される。ホロンコとは子馬。競り落とされた子馬が母馬と離れる寂しさからほろほろと流す涙のことを指す、とも▲20年ほど前、島原支局で秋の風物詩として毎年取材した。当時は島原市や有明町が会場で購買人や生産者家族らでにぎわった。屋外の広場で馬の親子が引き回され、買値を伝える男たちの声が響く。商談成立で「カランカラン」と鐘が鳴る▲島原半島は島原馬の産地として知られ、田畑の耕起や運搬で頼りにされた。戦時には軍馬としても。地域の人々の手記を収めた「長崎県 年輪 県南編」によるとホロンコ市について「農家では丹精こめて育てあげた仔馬に精一杯のご馳走(ちそう)をつくり、一家総出で仔馬との別れを惜しんだ」とある▲JA島原雲仙に尋ねると、飼育数の減少などで開かれなくなったという。JA職員は「時代の流れかな」とぽつり。生産者は現在、県外の競り市に参加しているとのこと▲ホロンコ市の本紙記事掲載は2004年が最後。当時の馬の飼育数は半島内21戸401頭。県島原振興局によると20年4月時点で5戸24頭まで減った▲馬のつぶらな瞳や親子のしぐさ、顔をほころばせて馬を見る人々-。時代の変化は著しいが半島の大切な風景として記憶しておきたい。(貴)

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