夫にガンが発覚し妻名義で住宅ローンを組んだ夫婦「第一子も生まれる予定。今後が不安です」

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、34歳、会社員の女性。夫にガンが発覚し、妻名義で住宅ローンを組むことになったという相談者夫婦。現在相談者は妊娠中で4月に第一子が生まれる予定。現在夫は完治していますが、しばらくは入れる保険もなく、今後にどう備えればいいか不安だといいます。FPの鈴木さや子氏がお答えします。


半年ほど前に妻(私)名義で住宅ローンを組みました。夫の収入は安定しておりますが、ローンを組むタイミングで皮膚ガンが発覚したためです。妻のみの収入では審査がおりず、夫が連帯保証人になっています(妻は団信加入)。来年4月には第一子も生まれる予定ですが、現在はお互いに医療保険のみで、この先5〜10年は夫が入れる保険はないと思うので、今更ですがとても不安です。

また、現在の生活費がかなり高く、妻が産休・育休時や、復帰後に収入が減ってもやっていけるのかが不安で見直しをしたいと考えています。

今後、どのような見直しや備えを行えば良いか、アドバイスいただければ幸いです。

夫は会社員で手取り月収27万円ほど、妻も会社員で手取り月収20万円ほどです。夫は半年ほど前に皮膚ガンと診断されましたが、今は切除して完治しています。 また数年前から尿酸値を下げる薬を飲んでいます。

妻は病気・怪我などはここ10年ほどなく、今は第一子を妊娠中です。 一時、切迫流産の危険性があり、1週間ほど仕事を休んでおりました(傷病手当はもらわず、残っていた有休を使用)。

子供は高校まで公立で、大学は私立理系(自宅から通学)も視野に入れ教育費を準備したいと考えています。介護は今のところ二人とも予定はありませんが、今後どうなるかはわかりません。

夫は今の職場に勤続した場合、退職金が800万円ほど出る見込みです。 60歳以降も働ける職場で、定年後も働く予定です。

現在は毎月の貯蓄から、下記の積立を行っています。

・夫 つみたてNISA 3万3,000円(満額)

・夫 iDeCo 1万2,000円(満額)

・夫 個人年金保険 1万5,000円

・妻 つみたてNISA 3万3,000円(満額)※始めたばかり

【相談者プロフィール】

・女性、34歳、会社員、来年4月に第一子出産予定

・夫、34歳、会社員

・住居の形態:持ち家(マンション、埼玉県)

・毎月の世帯の手取り金額:夫月収27万5,000円、妻手取り月収20万5,000円

・年間の世帯の手取りボーナス額:120万円(夫のみ)

【毎月の支出の内訳】

・住居費:ローン7万1,000円、管理費・修繕費2万円

・食費:6万円

・水道光熱費:1万5,000円

・保険料:1万1,000円(夫はガン保険のみ、妻は死亡時700万円の医療生命保険)

・通信費:5,000円

・車両費:1,000円(カーシェア)

・お小遣い:3万円

・その他:固定資産税積立 1万円 、火災保険積立 3,000円 、奨学金返済 1万5,000円、夫の定期代積立 1万6,000円、日用品 1万円、冠婚葬祭用の積立 1万円、医療費 1万円、理美容費 8,000円、コンタクト代6,000円、サプリ代 3,000円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:9万円

・ボーナスからの年間貯蓄額:50万円

・現在の貯金総額(投資分は含まない):400万円

・現在の投資総額:70万円(つみたてNISA、iDeCo)、100万円(個人年金)

・現在の負債総額:2,647万円(住宅ローン:物件購入額2,680万円、借入額2,680万円、団信込みの金利0.65%、返済期間35年)

・奨学金:妻のみ残債100万円(第一種と第二種半々くらい)

鈴木:もうすぐ出産を控えていらっしゃるご相談者様、今後産休や育休に入り、収入が減った時にやっていけるかご不安とのことですね。お金の使い道を見ると、定期代や火災保険料などを計画的に積み立てしたり、自動車は持たずにカーシェアリングを活用するなど、しっかり家計管理されていてすばらしいと感じました。とはいえ、切迫早産でお休みされている中、今後の環境変化にはご不安も大きいと思います。どのような問題が生じるか、これからの家計をシミュレーションして確認してみましょう!

今後40年間をシミュレーション

出産2ケ月前の2月から産休に入り、お子様が1歳になるまでご相談者様だけが育休を取得、復職後は3歳まで時短勤務で収入8割と仮定して、2022年スタートでシミュレーションをします。

【試算条件】
~収入~
・手取り年収:
夫 450万円(61歳~64歳は360万円と仮定、昇給なし)
妻 246万円(産休・育休前半については67%、育休後半を50%、子ども3歳まで80%・昇給・再雇用なし)
・個人年金:60歳より年100万円を5年間と仮定
・年金:65歳より世帯で150万円と仮定
~支出~
・生活費(1%ずつ増):174万円(月14.5万円)※お子様独立後8割
・住宅費(固定資産税・火災保険積立込):124.8万円(月10.4万円)
・教育費:高校まで公立、大学私立理系、大学院進学と仮定
・おこづかい:36万円(月3万円)
・臨時費用(冠婚葬祭・家具家電買換え・娯楽費・医療費等として):94万円
・奨学金返済:18万円(月1.5万円)※残りの返済期間を6年間と仮定
・個人年金保険:18万円(月1.5万円)
~その他(支出には入れず資産総額に反映)~
・つみたてNISA:79.2万円(月6.6万円)/iDeCo:14.4万円(月1.2万円)
試算上、元本のみ加算している

※住宅ローン控除、小規模企業共済等掛金控除等は反映せず

以上のように条件を仮定し試算したところ、次のようになりました。

今後40年間の収入と支出、資産残高の推移をもとに、アドバイスをお伝えします。

今の収入と生活レベルを維持すれば全く心配いりません

生活費がかなり高いと書かれていますが、全くそんなことはありません。生活費を上手に抑えており、手取り収入の約16%も個人年金保険やiDeCo、つみたてNISAに積立して順調に資産形成できていますので安心してください。

保育料がかかる間は少々貯蓄力が落ちますが、3歳以降保育料がかからなくなると貯蓄がぐんと進み、お子様が大学入学時には資産総額は4,000万円を超えています。理系とのことで大学院も考慮したのですが、大学、大学院時代は貯蓄で乗り切り、老後資金も問題なく準備できています。毎月のお金の使い方を拝見しても、大きなムダづかいはなく、これ以上減らすところは見当たりません。ただし、ボーナスの使い道がわからないので、見直せるとしたらボーナスになるでしょう。ご自身で振り返っていただけたらと思います。

老後についてはご相談者様も64歳まで働き続けられると、より減少の角度を抑えられます。また、iDeCoやつみたてNISAについては運用益を加味していないため、成果によって資産はもっと増やせるでしょう。

個人年金保険料やiDeCo、つみたてNISAの投資資金は銀行口座から引き落とされるため、口座残高が減って不安に思うものです。そこで、貯金も投資もひっくるめて、資産全体で管理することをおすすめします。銀行口座、証券会社口座や保険について情報を取得できる家計簿アプリを活用すると、一目で資産を把握できとても便利ですので、もし使われていない場合はぜひ検討してみてくださいね。

ただし収入が減った場合は赤信号

旦那様がご病気をされたこともあり、世帯収入が下がった場合も試算したところ、今のままでは手元資金はショートする結果に。資産形成より手元に資金を残すことを優先しましょう。たとえばつみたてNISAは中止、個人年金保険についても「払済」の手続きをして払込をストップするか、少し損はしますが解約しても良いでしょう。ボーナスの使い道も見直す余地があるかも知れません。iDeCoについては続けられなくなったら、掛金払込を減らす、またはストップすることができます。

また、ご相談者様に限らず、どの家庭でも収入減リスクはあり得ます。万が一に備え、世帯収入を出来る限り保つ方法を、早いうちから考えておくと安心です。たとえば、ご相談者様のお勤め先が、副業OKの会社であれば、できることがないか育休中にアイデアを練ってみてはいかがでしょうか。副業NGであっても、アンケートサイトへの回答やオークション出品、ブログライターなど本業に支障をきたさない、また税務申告不要の範囲でできることはありますので、ぜひ調べてみてくださいね。もちろん、お勤め先でのキャリアアップを目指すのも大賛成です。

住宅ローンは完済年齢を早められるよう繰上げを

昨年組んだ35年ローンの完済年齢は68歳。金利から察するに、おそらく変動金利か10年固定での契約であり、金利上昇リスクもあるため、遅くても65歳までには完済できるよう、繰り上げ返済をおすすめします。お子様の進路や教育費などの目途がたったら、少しずつ返済していくと良いですね。また、20年後からつみたてNISAの非課税期間が終了した資金も活用可能です。毎年40万円繰上げできれば、約5年間返済期間を短くできます。もし旦那様の分も繰上げにまわせれば、7年間短くできますよ。退職後に返済が続くのは、家計へのダメージも大きいもの。できるだけ退職後の固定費は減らせるようプランニングしましょう。

夫の死亡保障について

保険については、旦那様の死亡保障がないことがご不安と思われます。旦那様に万が一のことがあった場合、ご相談者様は、遺族厚生年金として年額約50~60万円(※1)をずっと、遺族基礎年金をお子様が高校を卒業するまで年額約101万円(※2)受け取れます。また、お子様が高校卒業後ご相談者様が65歳になるまで、中高齢寡婦加算が年額約59万円(※)遺族厚生年金に加算されます。他にもお勤め先からの死亡退職金や、iDeCo等の資産、がん保険の死亡保障などもあるでしょう。
※1:亡くなった人の収入によって変わる。あくまで概算。
※2:令和3年度価額

年金が旦那様の現在の収入より少なくご不安かも知れませんが、貯蓄もありますし、ご相談者様の収入と年金や児童扶養手当(ひとり親家庭への手当)を合わせれば、生活は不可能ではありません。ですので、今はあまり不安に思わなくて大丈夫!そして保険に入れる時期が来たら、収入保障保険など、できるだけ保険料を抑えた死亡保障を検討されると良いでしょう。

旦那様の看病など色々と心労も大きかったことでしょう。家計管理も資産形成もとても良くできているので、今はご自身のお身体を大切になさってください。そして生まれてくるお子様とともに、ご家族で笑顔あふれる楽しい毎日を過ごして欲しいです。

家計とは離れますが、旦那様が育休を取れれば、「パパママ育休プラス」を適用でき、育休を1歳2カ月まで取得することができます。ご相談者様の復職時にパパが育休を取得して、親子で新しい環境に慣れるために活用することもできます。2022年秋ごろからは育休制度もさらに使いやすいものに変わる予定ですので、ぜひ情報にアンテナを張っておきましょう。

ご夫婦で協力して、お身体をいたわり合いながら、ぜひ一緒に子育てや仕事、家事など毎日を楽しんでくださいね。

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