10月の個人消費はどのくらい回復?最新の消費動向と企業が抱える2つのコスト

長期に渡った新型コロナウイルスによる行動制限も徐々に緩和され、我々の生活も日常を取り戻しつつあります。一方で、11月15日に発表された2021年7~9月期のGDP統計では、実質GDP成長率の伸び率が前期比でマイナス0.8%、年率換算でマイナス3.0%であり、発表前に民間機関が予想していた数値を下回りました。

大きな要因の一つは、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言の発令を背景とする、個人消費の減速です。GDPのうち約5割を占める個人消費が前期比マイナス1.1%となったことで、7~9月期の成長率が押し下げられた上、先行きの個人消費動向にも不安を残す形となりました。

10~12月期の成長率を考える上でも、今後の個人消費への関心はますます高まっています。今回はマクロ系の指標に着目しながら、現在の消費動向と今後の企業業績を見ていくポイントについて見ていきましょう。


実は個人消費は急速に改善している

7~9月期までの個人消費は低迷していましたが、10月以降は緊急事態宣言解除など、状況が変わってきています。ここでは最新の消費データと消費者マインドのデータを用いて、直近の消費者の行動について見ていきます。

まずは、ナウキャスト(東京・千代田)の提供する「JCB消費NOW」のクレジットカードデータを用い、外食・旅行・娯楽業種のコロナ前比での回復度合いを見てみましょう。

グラフから、9月前半を底として回復傾向にあることがわかります。特に10月に入ってからは回復の歩調を早め、外食に関しては直近の1年間では初となるプラス圏、娯楽に関してもマイナス4.8%までマイナス幅を縮小しています。旅行はまだ水準としては弱くなっていますが、外食・娯楽の動きからも長距離の移動を伴わない範囲を中心に強い消費回復の動きが見受けられます。

感染状況が改善している中で、11月以降もこの傾向が続くことが期待できるのではないでしょうか。

また、消費者の今後の景気の見通しの判断材料となる、消費者動向指数を見ても消費マインドの改善が見受けられます。2021年10月の消費者態度指数は前月から1.4%ポイント上昇、雇用環境の指標は前月から4.9%ポイント上昇と急改善しており、消費者の先行き見通しに変化が見て取れます。

暮らし向きの指標は前月比では0.1%下落となっていますが、3つの指標ともコロナ前の水準近辺まで回復しており、消費者マインドの観点では、新型コロナ禍から脱却しつつあると言えるでしょう。

企業業績は2つのコストに注目

これまで見てきた通り、個人消費の低迷が心配されているものの、10月以降は回復基調が鮮明となってきています。そうなると、これまで厳しい状況に置かれてきたサービス関連業の企業収益も回復が期待されますが、コストの面ではどうでしょうか。物価動向と賃金動向の2面から注意ポイントを見ていきたいと思います。

まずは物価動向です。世界的な資源価格の高騰は日本にも影響を及ぼしつつあり、企業物価指数が前年同月比で上昇を続けています。10月は前年同月比でプラス8.0%と約40年ぶりの上昇を記録しています。

ここで企業を見る視点として気になるのは、消費者物価指数と企業物価指数の差です。簡単に解釈すると、この差が大きいほど、企業側の仕入れ価格の上昇分を消費者が支払う価格に転嫁できていないことになります。消費者物価指数の動きを見てみると、9月分ではプラス0.2%とプラス圏に転じているものの、8.0%まで高騰している企業物価指数と比較すると大きく乖離しています。

「デフレマインド」と称される日本の消費者の考え方を考慮すると、企業側が値上げに踏み切るのが難しい実情もあります。今後も企業物価指数と消費者物価の乖離が続く場合は、収益の回復と同時にコスト面の上昇も伴い、思ったような業績回復とならない可能性があります。

続いては労働市場、特にパート就業者の動向を見てみましょう。パートの新規に出されている求人状況について見てみると、企業側の新規求人数はコロナ発生時の減少から回復傾向にあり、それに伴い新規求人倍率もコロナ期では最高の水準まで回復基調にあります。

今後の動きとしては、代表的なものとして、夜間の営業の自粛が解除された飲食関連業などで人員を増やす局面となり、急速に求人ニーズが高まることが予想されます。

一足先に高いインフレ率が取りざたされているアメリカでは、経済回復に伴い人材獲得競争が発生し、時間当たり平均賃金の上昇率も高水準となっています。日本ですぐに同様の状況が起こるとは限られませんが、企業側の求人ニーズが回復していることも事実であり、企業業績を見る上では人材獲得コストの増加の観点も注目するといいかもしれません。

経済回復局面で気になるコスト面の上昇。物価の上昇というと、日本においては忌避されることが多いですが、一方で物価の上昇から企業の収益も改善し、労働者の賃金の上昇が伴えば、経済の好循環につながるとも考えられます。

消費者行動の回復による収益改善、そしてコスト増加懸念の両面を考慮しながら企業業績を見ていくことで、1歩進んだ視点で経済の先行きを見ていけるかもしれません。

<文・Finatext アナリスト 菅原良介>

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